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窓の外に目を向けると、隼人が3人の男女と合流するのが見えた。
そのうちの一人に、見覚えがあった。
神野恵理。
人見知りせず、すぐに誰とでも仲良くなれる、やはり高校3年時のクラスメート。
当時、隼人とも仲が良くて、いじり合っているのを目の当たりにしていた。
お似合いに見えた。
美由紀にとって、二人は別の世界の人たちに思えた。
だから、羨ましいと思うことはあっても、嫉妬することはあまりなかった。
隼人を毎日見られるだけで、幸せだった。
4人はそれから、向かいのカラオケ店に入っていった。
(やっぱり、付き合ってたんだ……)
肩を並べる隼人と恵理を見送りながら、美由紀は、今さらながら軽く嫉妬している自分に気がつく。
(何を期待してたの?)
苦笑しながら、自分に問いかける。そして、もらったばかりの名刺に目を向ける。
『株式会社○○ 京都事業所 菅田隼人』
(今も京都にいるんだ)
小田原市内の高校を出て、現役で京大に入った彼。
美由紀は、地元の短大を出て、今は保育士をやっている。
傍ら、幼い頃からずっと本が好きだった美由紀は、子供たちに絵本の読み聞かせもしている。
(帰ったら、LINEしてみようかな……)
名刺を見つめながら、ホットコーヒーをひと口。
それから、本を読もうとして、文庫本に挟んでおいた栞を外す。けど、字面を追うだけで一向に頭に入らず、何度も同じページを読み返す。
諦めて、開いたままの本をひっくり返し、テーブルに置く。そして、窓越しに、カラオケ店を眺める。
(歌ってるんだ……あの時みたいに)
美由紀は、7年前のことを思い出していた。
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