第十二話 付き合うと言うこと

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第十二話 付き合うと言うこと

 雪くんは、私の方を見ない。  私は雪くんを呼ぼうと思って、声を出そうとする。  その声よりも、雪くんの声の方が何倍も早かった。 「何してんの?俺の大事な恋人に。最近、ひどいなと思ってたけどさ…これ以上は容認出来ねぇわ。何度も言ったけどさ、俺分かられる気なんてさらさら無いから。先輩を不安にさせるような、危険にさせるようなことしないで欲しい。正直言って迷惑」  冷え切っている、氷のような声。  いつも見たいな優しい声とは正反対の、冷たい声。  柔らかい雪みたいな声ではなくて…  私は雪くんが怖くなってしまった。  一年生の女子たちは、そんな冷たい雪くんに驚きながら逃げていく。  雪くんになんで声をかけていいのか分からない。  震える手を一生懸命止めながら、雪くんの言葉を待つ。  雪くんは不安そうな声で言葉を紡ぐ。 「先輩、雪ちゃん?ごめんね…迷惑かけちゃって、嫌な思いさせてしまったっすよね。怖かったよね…」  そう言う雪くんに私は何も言えない。  今回は私も悪くて、迷惑かかってないよって言ってしまったら、雪くんがしたことが悪いことになってしまう。  私のためにやってくれたことなのに…  迷惑じゃなかったとは言えない。  だって、怖かった。それに嫌な思いをしなかったわけじゃないから…  私が思ったその感情を無かったことにしちゃったら、その時の私がいなくなってしまう。  それを私は一番知っていた。  だからこそ、私は否定できなかったのだ。  そんな私に雪くんは少し困ったような顔をしながらも、付き合ってくれる。  私はその日、雪くんに何かを言うことはできなかった。  どうすればいいのかが分からなくなってしまう。  変わりたいと思っただけなのに…  次の日、雪くんは私に手紙を送ってくれた。  下駄箱の中に、入れられていた手紙。  それを私はすぐには開けなくて…  結局開いたのは、三時限目が終わった時だった。  そこには、達筆ながらも優しさのある字が書かれている。 『先輩へ  沢山、怖い思いをさせてしまってすいません…  先輩ともっとちゃんと話しをすればよかったことなのに…俺の悪いところが出てしまって、本当にすいません。  今日、ちゃんと話しませんか?今回のこともそうだし、前のこともこれからのことも…きっと話すのが一番大事なことだと思うので…  放課後、先輩の教室に行きます。待っててください  雪』  雪くんの文章は思いが籠っていて、私のことを大事にしてくれていることがよく分かる文章だった。  付き合うって言うのはそう言うこと。  人が二人いるなら、会話はしないといけない。  私たちは思っているほど、自分の考えていることを相手に伝えられていないものだ。  それを理由に伝えようとしないのは怠惰だと私は思う。  だから、私は伝えるために放課後の予定を埋めた。  放課後。私は教室に一人、残っていた。  窓から見える景色は、冬に向かっている。  今年も冬がやってくるのだ。  冷たくて、寂しい季節。だけど、綺麗な季節でもある。  だから私は冬を待ち望む。  ガラガラと扉が開く。そこには雪くんがいて、下を向いていた。  雪くんを悩ませてしまって、申し訳ない。  そう考えながらも、私は覚悟を決めることにした。  一日中、ずっと考えていた雪くんに言う言葉を口から外に落とす。 「雪くん。私ね、怖かったの…とても。何が怖いって言うのはなくて、痛い思いをするかも知れないって言うのも怖かったし…何より、本当に雪くんに嫌われたのかなとか…そんなこと考えると止まらなくなっちゃって…昨日も、怖かったから…怖いって思った自分も、守ってくれた雪くんのことも、無かったことにしたくなくて…だから何も言えなかったの、ごめんね…」  私がそう言うと、雪くんは私の顔を見てくる。  その顔がとても不安そうで、悔しそうで…  何も言えなくなってしまった。  雪くんはゆっくりと私の方に近づいてくる。  そのまま、雪くんは私を見ながら言った。 「先輩に言えなかったことが一つあって…俺、好きが分からなかったんです。好かれることは多くて、俺はその場しのぎで誤魔化してたんです…でも、誤魔化すなんていつまでもできないじゃ無いですか…その度に失敗してしまって…だけど、先輩のことはちゃんと好きになれたんです。だから今回、守り切れなくて…本当にすいませんでした…」  雪くんは、少し不安げに教えてくれた。  私と同じように、悩んできたのだろう。  好きになれなくて、でも恋だけは人一倍してしまった。  その結果、雪くんは誤魔化すと言う行動をしたのだろう。  私が恋することを辞めたように…  きちんと、伝えてくれた。  その事実が私にとっては嬉しくてたまらない。  私はその感情そのままで、雪くんに抱きついた。  雪くんの気持ちが痛いほどよく分かってしまって、抱きしめたくて仕方がなくなったのだ。  一人で悩んで、苦しんで…  私と全てが同じだったとは言えない。  だけど、苦しんだことは間違いないのだ。  大事な人が苦しむのは嫌。  そう思えるようになったのも、つい最近。  雪くんに出会ってからだ。  私は心からの思いを言葉に落とした。 「雪くん、話してくれてありがとう。全部が分かったわけじゃないけど、分かりたいと思うの。雪くんが大事だから…だから、話して欲しい。今までのこと全部」  そう私が言うと、雪くんは目に涙を浮かべながらもポツポツと話をしてくれる。  今までしてきた恋愛とか、小さい時の話、今回のこと…  話すことがもう無いんじゃ無いのかってくらい、話す。  お互いがお互いのことを少しでも理解するために…  私たちはもう一人じゃ無いから。  二人になれたのだから、補い合わないといけない。  そのためにも、お互いを知るべきだったのだ。  大事なことから逃げてしまっていた今までの自分に、バカだなぁ…なんて思いつつ、話し続ける。  目一杯話し終えた頃には外は暗くなっていた。  私と雪くんは戸締りをして、帰り道を歩く。  反対側に向かう電車に乗るために、駅に向かう。  私は雪くんにしゃがんでもらった。  そのまま、頬にキスをする。  体育祭の時のように、キスをしながらも私は携帯を出して写真を撮った。  付き合っているのだから、これくらいのイジワルしても許されるだろう。  私はそのまま、その写真をSNSに投稿した。  親しい友達だけが見れるようにして…
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