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第十三話 友達特権
寂しくも、綺麗な冬が今年もやってきた。
冬休みにクリスマス、年末年始に、誕生日。
大事なことばかりで、私はワクワクしていた。
これから起きることを想像して、カウントダウンをしていく。そんな日々を過ごしていた。
冬休みに入ってすぐに、親友同士でお泊まり会をすることになっている。
私はそれが楽しみすぎて、毎日カレンダーを眺めた後家を出ていた。
家を出る直前、いつものように鏡で制服を整える。
学校では雪くんと連絡をしつつ、授業も一生懸命に受けた。
昼休み、私たちはできる限り集まれるときは集まって、お泊まり会の計画を立てる。
お菓子パーティをしようとか、カラオケしよう、流行りのケーキ作りたいとか…
計画を立てている時が楽しいなんて、よく言ったものだ。
私たちはいろいろと計画をしていった。
早く冬休みになって欲しい。
そんな日々を過ごしながらも、雪くんとの会話は欠かさなかった。
大事なことだと、私たちが一番分かっていたから。
あの事件が起きてから、私と雪くんは一緒に帰ることにした。
お互い部活に入っているわけでもなかったから、委員会がある日はどちらかがどちらかを待つ。
こんな日々も嫌いじゃなくて、幸せを感じてニマニマとしてしまう私は嫌いじゃない。どちらかと言うと好きだ。
私はこの日々が続いて欲しいと常々と思ってしまう。
変化のない未来はありえない。
きっといつかはずれが生じる。時間は進んでいるのだから…
今日で今学期も終わり。
明日から、冬休みだ。そう思いながらも、私はワクワクしていた。
ただ、そんな中問題は起きる。
今日も雪くんと帰ろうかなと思っていると、桜麗が近づいてきた。
「雪、お泊まり会の計画を立てたいのだけど、この後空いてる?どうしても今日決めたいことがあって…」
私は桜麗にそう言われてすぐに、雪くんに連絡を入れようと携帯を出す。
ただ、タイミング悪く雪くんが教室についていた。
最悪だ。なんとなく感じていたことがある。
それは、雪くんと桜麗の相性が最悪だと言うこと…
桜麗はなぜか雪くんを敵視している。
そして、雪くんは自分に向かってくる視線に敏感。
と言うことは、お分かりだろう。
今の状況は確実によくない。
私がぬるま湯に浸かりすぎていた。
いろんなものを後回しにして、目先の楽しいことを追いかけすぎたのがよくない。
分かっていたのだ。なんとなくだけど…
いつか、この二人が衝突するだろうと。
ちゃんと、対処すべきだった。こうなる前に…
みんなと雪くんの交流を図るべきだったのだ。
友情も愛情も、なんで欲張りをしたのだから。
その責任は取らないといけない。
しないといけないことは沢山あった。
忙しかったのは事実だけど、しないといけなかったのも事実。どうしよう…
そう私が考え込んでいるうちにも、喧嘩は始まりかけていた。
「雪の彼氏くんだっけ?雪は今日、私たちと約束があるんだ。すまないが、後日にしていただけるかな?」
「先輩。こちらこそすいませんが、雪ちゃんと帰る約束をしているので、後日にしてもらえますか?その約束」
桜麗が最初に喧嘩を売る。
気を許していない相手に対して、桜麗は穏やかな男の子のように言葉を発する癖があるのだ。
さながら、イケメンのように…
それに対して、雪くんは不満気に返事をする。
敵意を向けられていることに気付いたのだろう…
大変なことになった。
どうしようと言う言葉しか、頭に浮かばない。
私はただただ、焦って空回りしかけていた。
そんな時、麗歌が現れる。
私は麗歌に助けてと言う目線を必死に向けた。
お願い、気付いて…
「桜麗、そんなふうに煽るように言ってはいけませんよ。雪くんでしたよね?すいませんが、今日はズラせない約束を雪としてしまっていて…申し訳ないのですが、今回は折れてもらえないでしょうか?連絡が遅くなってしまって、申し訳ないです。大丈夫でしょうか?」
麗歌はいつも通り、丁寧に言葉を送っていく。
相手に伝わるように、一方的ではない相手に伝えるための言葉。
だからこそ、麗歌が言うと誰であろうと従うのだろう。
相手を下に見るわけでもなく、相手が納得いくように伝える。
それができる麗歌はすごいと思う。
私には苦手なことだから…
桜麗は麗歌の言葉に従って、それ以上雪くんを煽るようなことは言わなかった。
雪くんは、私にあとで連絡して欲しいとだけ伝えて、麗歌と桜麗に一礼して教室を出ていく。
私が解決するべきなのに、結局何もできなかったことがすごく悔しかった。
麗歌がいなかったら私がしないといけなかったこと。
それを麗歌に丸投げした。
よくないことだったことは分かる。
私がそうやって、落ち込んでいると三人は私を呼んだ。
そのまま、私たちは買い出しに行く。
楽しいはずなのに、心の中ではモヤモヤとしていてうまく切り替えができない。
雪くんと三人が友好的になるにはどうすればいいのか…
どちらも大事だからこそ、選べないし選びたくない。
それは私のわがままだ。
決まりきらない考えをぐちゃぐちゃと考えながら、買い物をしていく。
そんな時、麗歌が隣に来た。
麗歌は落ち着いた声で、私に言う。
「雪はいつでも悩んでいますね…どんなに小さなことでも手を抜かない完璧主義。そこも雪のいいところですが、空回りしてしまう原因にもなってしまっている…雪、あなたは私に私たちに頼っていいんですよ?友達ですから…」
きっと、麗歌は私の心の中が見えているんだと思うほど的確なことを言い当ててくる。
私は正直、誰かに頼るのが得意ではない。
自分でやらないといけないと思ってしまうから…
頼るのが得意じゃない。
それを分かっている麗歌が分かっていないわけがない。
私が頼らない理由なんて、きっと分かっているはずだ。
そう、私が黙り込んでいると麗歌は心を読んだように言った。
「雪は知らないと思いますが、友達特権というものがあるんです。恋人特権があるように、友達にも特権はあるんです。その中に頼るって項目も含まれているんですよ…私たちに友達特権を使う権利をくれませんか?頼られるのを待っているんです。ずっと…」
麗歌はそう言って、カゴの中に買いたいものを追加しに行く。
私はそのままの流れで雪くんに連絡を入れた。
『今度時間空けてもらえないかな?少し話したいことがあって…』
雪くんに送信した後、三人にも言う。
「あのさ、今度いつ時間が空いてる?三人に大事な話をしたいの…友情も愛情も捨てられないから」
そう言う私を見て、麗歌は笑っていた。
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