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第十五話 春の準備
人間、全てが変わることなんてない。
小さなことからしか変えていけないのだ。
変わることも変わらないところもある。
人間は完全ではないのだから…
完全になることはなくても、完璧にできなくても、それに限りなく近づくことができる。
そういう生き物だ。
始業式が始まった。今日から三学期。
三学期をまるっと満喫できるのは、今年が最後。
冬から春に移り変わるこの時期が私は好きになれない。
寂しいからだ。
寂しい冬が終わるということは、春を迎えるために別れが始まる。
卒業式にクラス替え…
次入ってくる人たちのために、私たちは場所を空けないといけない。
段々と近づいてくる終わりが怖くなってくるのだ。
全てが無かったことになってしまうような気がして…
先輩の卒業式は二週間後。
追いかけてきた先輩が学校からいなくなってしまう。
その事実が私を不安にさせていた。
前を先導してくれていた先輩方も後少しで卒業だ。
永遠の別れでもないのに,悲しくてたまらない。
そんな私の心に寄り添うように,風が吹く。
風の中にら柔らかくて,暖かい春がいる。
私は通学路の桜の木に蕾がついていることを見て,寂しさが増してしまった。
学校に着いたらすぐ,席に着く。
相変わらず私の席は窓際。外がよく見える特等席。
私はこの席から窓の外を見るのが好きだ。
窓から見える景色は四季をよく表していて、綺麗。
それに私が変わる理由になった出来事に巡り会えた特別なアングルだから。
ぼーっと外を見ている私にいつメンが話しかけてくる。
いつも通り、恋愛の話ばかり…
学年末も終わって、テスト勉強をしなくてよくなったからだろうか。
今日はいつもに増して、恋バナが盛り上がっていた。
私が雪くんと付き合っていることを知らない人はもういない。
それくらい有名なカップルになったのだ。
恋バナの中心は万鈴の好きな人に関して…
万鈴はついに好きな人に告白するらしい。
それを聞いたいつメンはいつも通りお節介を始めた、というのがここまでの経緯のようだ。
いつメンは私にどんな告白をしたのか、どう呼び出したのか、なんて聞いてくる。
私はなんとなく、めんどくさいななんて考えながらも応えようとした。
そこで、人から呼ばれたのだ。
「観月さん,彼氏さん来てるよ」
私は急いで扉の方に走っていく。
雪くんがこんな朝早くに来ていることも不思議だが、それよりも二年のフロアに来ることが珍しいのだ。
二年のフロアに雪くんが来るのは、私と約束をしているか、委員会の用事かの二択である。
今日は約束も委員会の用事もなかったと思うのだけど…
そう思いながら、扉を出ると雪くんが笑いかけてくれる。
「先輩!すいません、朝早くから…今日の放課後、中庭で話しません?話したいことあって」
雪くんがそう濁したように言う。
こう言う時は大体サプライズをするとか、私のこととかだ。
私は頷いて、集まる時間を決めた。
そのまま、教室の中に入るといつメンはニマニマと笑っている。
やらかした…見られてたみたいだ。
いつメンは私を囲んで質問攻めをしてくる。
私はその質問にのらりくらりと返答していった。
朝の時間はバタバタと進んでいって、昼には来年の学校行事について話し合いをしていく。
ここら辺の地域で一番有名なうちの学校の体育祭は、一年前から入念に準備を始めていくのだ。
装飾や、チラシのデザインを担当する私たちも参加を余儀なくされた。
うまくまとまらずに進まない話し合いでも、誰一人として雑に話し合わない。
こんな雰囲気が自然とできる今の委員会メンバーが私は好きだ。
全員で悩みながらも話し合いを進めていって、昼休みが終わる。
着々と一日が終わっていって、放課後になった。
私は中庭に行く。
風紀美化が管理している中庭はそこら辺の植物園よりも手入れが行き届いていて、綺麗だ。
私は中庭の中央にある大きな桜の木に近づいていく。
木の下には,年紀の入ったベンチが置いてあった。
ベンチが濡れていないことを確認して、座る。
そのまま、遅刻常習犯である雪くんを待った。
読んでいた小説が終盤に差し掛かった頃、本に影が掛かる。
私は小説から目を離して、前を見た。
そこには息を切らしている雪くんがいる。
まだ少し寒さが残っているはずなのに、汗を拭く雪くんを見ながら私はベンチの上の葉っぱを払った。
雪くんはそこに座って、言葉を紡ぐ。
「先輩、また悩み事あるでしょ?例えば,委員長が卒業しちゃうとか…」
私は雪くんのその言葉に驚いた。
気づいていたのか…
必死に隠していたつもりでも、分かっていたみたいだ。
私は雪くんの質問に頷きつつ、質問を返す。
「なんで分かったの?」
そう聞く私に雪くんは、さも当たり前のように答えた。
「そんな気がしたからっすよ…最初は声が沈んでるなって思ったところからっすかね。何かあったのかなぁって…それで今日教室行ってみたけど、特に異変なさそうだったんで、色々考えて卒業が近いからかなってとこにたどり着いたって感じです」
雪くんの返答は、私のことを私以上に理解している彼にしかできない返答で、私はその事実にすごく嬉しくなってしまう。
それと同時に、寂しさも湧いてきた。
先輩がいなくなってしまうんだなと必要以上に理解してしまったから…
そんな私の寂しさに気づいたのか、雪くんは私にある提案をしてくれた。
「今日は提案があるんすけど、委員長に花束渡しませんか?俺の親が花屋やってて、告白の時のブーケも母さんに作ってもらったんですよ…卒業シーズンってやっぱり花束の注文多いみたいで、卒業式に花束渡しに行きませんか?俺が花束作るんで、先輩が花選んだりしてください」
雪くんの提案は私の考えていたアイデアよりも良くて、私はすぐに頷く。
そのままの流れで図書室に向かう。
花言葉が書いてある本を借りて、私は雪くんのお母さんのお店に伺うことになった。
初めて会う雪くんのお母さん。私はガチガチに緊張して、体がギシギシと音を立てるように動く。
そんな私を見て、雪くんはそんな緊張しなくていいと言いながら道案内をしてくれた。
赤い屋根の綺麗なお店。雪くんは私の手を引いて、お店の扉を引いた。
「母さん,ただいま。あのさ前々から話してた彼女も一緒なんだけど、裏使ってもいい?」
そう言う雪くんの声に反応して、バックヤードから髪の長い綺麗な女性が出てくる。
その女性は私たちの方に一直線に走ってきた。
目がギラギラと光っていて、補食する気の動物のようで私は一歩下がってしまう。
「きゃあ〜!!雪ちゃん!?かっわいい子なのね…ちょっと,もっと早くに言ってくれないと何も準備してないじゃない!!前々から話には聞いていたけど、想像以上の美少女すぎて…お母さんどうすればいいのか分からないんだけど〜」
そうマシンガントークをする女性を雪くんは静止する。
私は背中に宇宙を背負って,固まってしまった。
「母さん,そのマシンガントークする癖そろそろ直してくれよ…先輩もびっくりしてるから」
「嘘〜ごめんなさいね…ついつい興奮しちゃうとマシンガントークになっちゃうのよ〜気を付けてはいるんだけど…」
雪くんと女性の会話を聞く限り、この女性は雪くんのお母さんみたいだ。
顔が百面相しているみたいにくるくると変わっていく。
キラキラとしている顔は雪くんと同じで、しゅんとする顔は怒られた犬のようだ。
明るいお母さんなんだなぁ…そう思いながら,私は自己紹介を始める。
「突然お邪魔してしまって、すいません…雪くんとお付き合いさせてもらっている観月雪と言います。よろしくお願いします」
私はそうテンプレートのような挨拶をして、雪くんのお母さんの方を見た。
お母さんは首が取れるんじゃないかってほど、首を振っている。
そんなお母さんに雪くんがことの詳細を説明した。
すると、お母さんは二つ返事で了承してくれて裏に招いてくれる。
「何もなくて、ごめんなさいね…ゆっくりしていって!」
そう言ってくれるお母さんに私はペコリとお辞儀をして、雪くんの後ろをついて行った。
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