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第十七話 私と君
私は思う。
恋をする資格がない人なんて、この世にいない。
誰しも恋をしているのだから…
恋することが悪いわけじゃないのだ。
ただ,恋が何かを忘れてはいけない。
恋愛は愛のうちの一つ。友愛も恋愛も敬愛も親愛も…
全て大きな愛を切り分けたものなのだから…
友達を大事にする。それも恋であり、愛。
恋人を作る。これも友情と同じだ。
先輩を尊敬して、追いかける。これだって、愛なのだ。
みんな恋をしているのだ。
恋する気持ちは愛情から生まれる。
恋に恋する私は、愛情を大事に抱えて持っていただけなのだ。
冷たい雪の中に埋めていただけ。ただ、それだけの話。
だけど、私の雪は溶けてしまった。
雪くんと言う恋人によって…
今までの恋愛だって、立派な恋だったのだ。
人を好きにならなくたっていい。
付き合うだけが愛の証明ではないのだから…
相手を大事にすることも愛の証明だ。
恋愛も同じ。相手を大事にしていれば、大事にされる。
そう言うものだと私はこの一年で気づけた気がした。
雪くんと出会って、ドキドキして…
変わっていく自分に困惑して、目を逸らす。
きちんと変わっていく自分と向き合って、変わろうと努力した。
変われば変わるほど、今までとはかけ離れていく。
周りも私も…常に変わり続けなければいけない。
止まることはできない。
私たちは未来に向かって、進んでいるのだから…
私は今日もいつも通り、毎日のルーティンを文字をなぞるように行なっていく。
ロングの髪をふわりと巻いて、制服に手を通す。
ミルクティー色を基調とした制服は私を変えてくれる。
冷たい私から暖かい私へ…
私はそのまま、朝食を取る。
両親にお兄ちゃん、それに私が食卓を囲む。
色々な会話をしながら、今日の予定を擦り合わせていく。今日の放課後はパンケーキを食べに行こう。
部屋にある全身鏡に布をかけて、荷物を持つ。
午前七時三十分、私は家を出た。
通学のために利用する駅までの道のりを、私は寄り道せずに進んでいく。
恋愛漫画のようなロマンチックな出会いなんてもう私にはいらない。
私はワイヤレスイヤホンを取り出しながら、電車に乗り込む。
BGMを流しながら、電車を揺られる。
電車を降りて、駅を出た。そこには、雪くんがいる。
雪くんを私が初めて見た、校門から伸びる一本道を進んでいく。
その一本道は、桜が散りかけていた。
一歩ずつ、階段を上がっていく。
一階から二階に…私はそのまま、階段を登り続けた。
朝から賑やかだった廊下は、今日は静かで…
いつメンもいつメンではなくなった。
万鈴もついに彼氏が出来たし、私はもう窓際の一番後ろではない。
私は自分の席に座った。
いつも通りでいつも通りじゃないこの日々が、今の私には心地いい。
そのまま、慣れた手つきで携帯をポケットから取り出す。
携帯には四件のメッセージが入っていた。
『今日の放課後は四人で遊び行こーね〜』
『ひよりから連絡入ってると思いますが、今日は四時三十分にいつものカフェで待ち合わせです』
『雪ちゃん、元気?今週の土曜日の予定空いてる?もし空いてたら、予定に私と遊びいくも入れておいて』
『今日の放課後、何するのか聞いているかい?』
一目見るだけで誰からのメッセージか分かるメッセージに笑いながら、私は返信していく。
そこに追加でメッセージが入っていた。
『今日、放課してすぐにそっち行くから待ってて』
私はそのメッセージを見るだけで、心臓がいつもより早く動く。
いつまで経っても変わらないこの心臓が私は好きだ。
彼のことが大事だと言うことを証明しているような気がして…
私はメッセージへの返信を送る。
放課後を楽しみにしながら、授業を受けていった。
昼休み、私は図書会議室で仕事をこなしていく。
委員長という仕事は想像以上に忙しいものだ。
委員会の活動記録を確認しながら、次回の集まる日程を調整していく。
この仕事にはいつまで経っても慣れなくて、時間がかかってしまう。
だけど、急ごうとも思わなかった。
先輩の仕事は早かったわけではない。
丁寧だったのだから、私は先輩のそんなところを尊敬している。だから、私は急がない。
その代わり、丁寧に仕事を進めていった。
放課後、私は三人にメッセージを送りながら、窓の外を眺める。
二階とは違って、外がよく見えない三階は不便だ。
私は携帯をポケットにしまって、ベランダに出た。
春の暖かい空気が私を包む。
外には桜の絨毯ができていて、そこをたくさんの生徒が歩いていた。
校門に向かっていく生徒に、忙しそうにグラウンドの方へ向かう生徒。
色々な人が進んでいく先を見ながら、私は思い出す。
あの日、彼が上を見たことから始まった。
図書委員会で一緒に仕事して、体育祭の噂に振り回されて…変わるためにお互いに過去を認めて、私が欲張りになって、そして別れを経験した。
あの日から1年経っていないはずなのに、私の中にはたくさんの思い出があった。
ただ,それでもあの日のことは忘れられない。
私にとってあの日は変わるための、恋するために必要な日だったから。
そんなことを考えながら、外を見ていた。
ガラガラ…
私がいる場所とは反対側から扉の開く音がした。
開いている扉の方に目線を向ける。
そこには、あの時の笑顔をした雪くんがいた。
大きな花束を持って…
「雪、俺と出会ってくれてありがとう。今日は俺と雪が初めて会った日から一年がたった日。きっと、雪は覚えていないかもしれない。だけど、俺にとってはすごく大事な日だから…だから、この花束を渡すことにしたんだ」
そう言って、雪くんは私の方へ近づいてきた。
私は雪くんの手の中にある花束を受け取るために、向き合う。
そして、雪くんは言った。
「恋に恋する君に、俺からの最大の愛情を」
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