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妹が王都に着くと、町中に人々の不満の声が高まっているのを感じました。
なぜなら、魔法使いが王様になってからというもの、貴族は高価な貢ぎ物を差し出さなくてはならず、国民は重い税金に苦しんでいたからです。
妹は王様に教えてもらった通り、王宮の門衛に近づいて言いました。
「この美しく珍しい剣を王様に差し上げたくて、遠い国から参りました」
妹が剣を門衛に見せると、すんなりと王宮の中に通されました。
妹は、魔法使いの前に案内されると、ひざまずきました。
「どうぞこの剣をお取りください」
と剣を両手に捧げて見せました。
魔法使いの表情は仮面を被っているのでわかりませんが、とても喜んでいるようです。
仮面の貴石は濁っていて、いつにもまして、くろい光を放っていました。
魔法使いは、剣を両手で握ると、鞘から抜こうとしました。
ところが、ちからいっぱい引っ張っても、びくともしません。
「剣が鞘から抜けないではないか! お前、何とかしろ!」
と魔法使いは不機嫌になり、妹に命令しました。
魔法使いは、女性である妹を全く警戒していませんでした。
妹は恐れおののいた風を装いながら、魔法使いから剣を預かります。
「おかしいですね。私がやってみましょう」
と言って、妹は剣と鞘をしっかりと握りました。
そして、少し捻りながら一気に抜きました。
剣には、簡単に抜けないように、特別な仕掛けがしてあったのです。
妹の抜き放った剣は、あかい光を放ちながら仮面に向かってまっすぐに伸び、くろい光を切り裂きました。
仮面の貴石が割れて、辺りに散らばりました。
魔法使いが仰け反ったので、妹は剣を握りなおし、魔法使いを仮面もろとも真っ二つに斬りました。
魔法使いは、悲鳴をあげて苦しみながら、姿を消しました。
そのあとには、仮面だけが転がっていました。
こうして王国は魔法使いの恐怖から解放されたのです。
王様は王妃と王子を伴って王宮に戻りました。
王様の帯には、王妃の貴石が黄金色に輝いています。
王国は再び平和になり、人々に笑顔が戻りました。
妹は、今回の働きが認められて「勇者」と称えられ、姉である王妃と好きな時に会えるようになりました。
めでたし、めでたし――
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