紅(くれない)の剣(つるぎ)と黒き仮面

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紅(くれない)の剣(つるぎ)と黒き仮面

 この地では古から、特別なちからを与えた石をつかって、自分の願い事を叶える習慣がありました。  人々はこの特別な石を「貴石(きせき)」と呼びました。  その昔、人里離れた場所に美しい姉妹が住んでいました。  姉妹は、山野に分け入って材料となる石を見つけて、その石に特別なちからを与えることを仕事にしていました。 「貴石がほしい」とお願いされたならば、姉妹は、その人の願い事をよく聞いて、人柄を見て、納得した場合だけ、特別に貴石を造りました。  姉妹が造った貴石は大変評判になりました。  なぜなら、必ず願い事が叶ったからです。  あるとき姉妹のところに、村に住む若者が訪ねてきて、「王様になりたいので貴石が欲しい」と言いました。  若者は王様になって、自分のような貧しい者のいない、豊かで平和な国を造りたかったのです。  しかし、王様になるのは、とても壮大な願い事です。 「私たちにとって、その願い事は大きすぎます。貴石を造ることはできません」  と、姉妹は断りました。  姉妹に貴石を造ることを断られたものの、その後も若者は姉妹のところにやって来るようになりました。  若者は、その後は決して「貴石を造ってほしい」と言いませんでした。  ただお話しするだけだったり、仕事を手伝ったりするだけで帰っていきました。  このようにして何度も通ううちに、姉と若者との間に恋が芽生えました。  妹は姉を応援し、二人の愛が育まれていくのを温かく見守りました。  やがて、姉は若者は結婚し、男の子が生まれました。  母となった姉は、自分の子のためにも、「争いのない豊かで平和な国が欲しい」と願うようになりました。  子どもが生まれたことで、若者の願い事が姉の願い事にもなったのです。  姉には貴石を造れるだけの大きなちからがわいていました。  姉は全身全霊を注ぎ込んで貴石を完成させました。  姉が造った貴石は黄金色に輝いています。  若者は貴石を帯に通し、常に身に着けて行動しました。
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