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しかし、それ以外に、人影はなかった。
練習が始まるから降りて来なさい、と僕を呼んだ顧問は知らない人だった。男か女かも分からなかった――こんな経験は初めてだ――。
「壁打ちしている初心者の一年も、一旦集合。今日の練習を見てくれる、OBのE41YQJ77B0先輩だ」
どうやら、ここでの僕は"OB"らしい。
次の日も部活があったので、体育館へ向かった。
今年入部した部員も、僕の顔を覚えてきたらしい。溝鼠の様に、銘々話しかけてきた。
「E41YQJ77B0先輩、休み明けにスピーチがあるんですけど……あ、自分の好きな物について話すんですけど…」
その後彼女は、角砂糖を喉に引っ掛けた様な声で、コソコソと捲し立てた。
何と言ったかは分からない。分かりたくもない。
僕はギャラリーに向かい、棚引く遮光カーテンを抑えた。
風が館内に吹いていると、シャトルが無限に浮遊をしてしまうし、部員が気体になってしまうのだ。
じゃあ窓を閉めればいいじゃないか、と逸らないでくれ、ナタナエル。窓は、閉まっていたのだ。
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