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坂本さんは日傘を開き、立ち去ろうとしていた。
「待って下さい!せめて、この花束から一本、花を選んで下さい!そうしたら僕達は知り合いになれる!あなたのファンなんです!」
追跡しようと思ったが、それは叶わなかった。
スマホが揺れ、母親からのメールを通知する。それは、僕の心を揺らした。
"明日が引越しの日なんだから、荷造りの手伝いをしなさい。"
今思い出したら、あのとき、もう一歩踏み出せたら……なんて。
体育館の扉を開ける。午前十時がタイムリミットの青い香。
遮光カーテンが揺れている。深窓の令嬢が手を振っているのだろう。
顧問が、E41YQJ77B0先輩は引っ越すから教えに来るのはこれで最後だ、と伝えた。
そして何か一言、と話を振られたので、熱中症に気を付けて、とだけ喋った。
深窓令嬢、その手は手招きか、惜別か……。
「改めて、OGのE41YQJ77B0先輩でした!四日間、だったかな?ありがとうございました!」
嗚呼、深窓令嬢、ここでの僕はOGと云うらしい。
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