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今困ってるんでもないのに、もしかしたらこの先誰かに結婚相手として見込まれるかも…なんて根拠もなく警戒し始めるの、いくら何でも自意識過剰が過ぎないか?
少なくともアスハには内心そう思われて呆れられそう。本人の方が既にそういう目に遭ってるけど、傍で思うより自身は特に困ってもいない可能性もある。
異性に接近されて絡まれても、その気がないなら普通に素っ気なく受け応えてればいいだろ。手応えがなければ諦めてどっか行くよ、とか経験を交えてあっさり片付けて済まされそう。言われてみればそれも確かにそうだな、そんなに大袈裟に対策考えるほどのこと?って気も、確かにするし…。
いろいろ迷って、結局わたしはアスハにその件について相談するのをやめた。とりあえず今の時点では。
実際に自分の身の上に困ったことが生じて、いよいよこのままは難しいな。ってときになったら腹を括ってアスハを頼ればいい。わたしが見るからに難儀な立場になってたらそれは間違いなく力になってくれる。そのくらいの相方に対する信頼は既に二人の間にはある(と、思いたい)。
まさか、わたしが好まない男にロックオンされてても身から出た錆だろ。初期の段階ではっきり断らないからだよ、なんてすげなく突き放されたりとか。ないよね?さすがにそれは一緒になって方策を考えてくれるよね…?
助けてくれるにはくれても、俺ならこのくらい自分一人で何とかできるけど。とかひと言付け加えられて冷ややかな目を向けられたりして。いやそれどころか、もしかしてそんな事態になるより先に。
俺この子と一緒になることにしたから、旅の道連れはここまででいいかな。短かったけど案外楽しかったよとか、こいつにしては精一杯のお愛想を最後に付け加えてここであの女の子と二人で去って行ったりして。…ないとは思うけど。断言できるほど確実にアスハのことを知ってるわけじゃない。わたしにとって唯一、心の中も読めてない存在だし。
いろいろ考えてたら頭の中がぐるぐるしてきて、眠れそうもなくなってきた。
なのに背を向けた方からは規則正しい健やかな寝息が既に聴こえてきて、何だか勝手に自分だけで抱え込んで悩ましく思ってるのがだんだん馬鹿馬鹿しくなってくる。
そもそも、あのカザマさんが余計なことふっかけてくるまではこんなこと全然気にも留めてなかったのに。と内心で八つ当たり気味に毒づく。
それまではどうやらアスハが女の子に気に入られてる様子でも、まあそんなこともあるよね。こいつ見た目だけはまあまあだからな、程度にしか考えてなかったからな…。
まあ、今日の状況見てたら明日にはもう二人が超スピードでカップル成立、とはならない可能性が高いと思うし。いくら何でももう少し時間的な猶予あるだろ。
考えすぎで睡眠足りなくなったらしょうもない。明日に備えてここは早く寝よう。ちゃんと然るべきタイミングで改めてそういう話をする空気のときに、落ち着いてこっちから話題を持ち出せばいいや。
その前にアスハが他の女の子を選んじゃうならもうそれは仕方ない。そういう運命だったんだ、と諦めるしかないんだ。とわたしはだらだらと繋がってなかなか切れない思考をぶっちりと無理やりにそこで引きちぎり、身体を丸めて布団を頭から被るとしっかりと目を閉じた。
翌日、起きてきたアスハはもう数日ここに滞在しようか。と改めてわたしに持ちかけてきた。
「持ってきた食材で日保ちのしないのはほとんどここに供出しちゃったし。それなりの量提供したから、その分長めに逗留しても大丈夫だろ。ここを過ぎたらあとは町に出るまでどういう経路を行けばいいか、途中で泊まれそうな場所はあるかとか。他の旅人やここの職員の人から少しは情報を得ておきたいし」
一緒に泊まってる居合わせた旅人たちから?
ちらと昨夜のあの女の子の不満そうな目つきが脳裏をよぎったけど。アスハが彼女のことを思い浮かべてこの台詞を口にしたという根拠は何もない。
それに、そうだとしても何も悪くはない。昨日あんなに向こうからいろいろと話しかけてきた人だから、何か教えてもらうには都合がいい、とっかかりのある相手だと見越してても別におかしな判断じゃないだろう。
けど、もしかしたら思ってるより早めにこいつとは別れて別の道を行く運命なのかもしれないな。と漠然と考えながら食堂へ続く廊下を並んで歩いてたら、何でかどよんと憂鬱っぽい気持ちになってきた。
朝ごはんは運営の人たちが用意してくれたものをどどん、と並べたのを各々食べたいものを取る形式。本で読んだことのある『ビュッフェ』ってやつに形は似てるが、全員に全てのものが行き渡るわけじゃない。
宿泊者が持ち寄る食材は種類も量もばらばらだから、とにかくその日準備できるものを一斉に並べるしかない。だから早いもの勝ちでとにかく目の前にあるものを取る。
あとから起きてきてお米がない、とかパンがないとか言っても無駄。芋とかクラッカーとか何となく腹に貯まりそうなものを代わりに取るしかない。
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