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俺の年下の彼女は、我が家の愛犬のコムギにどことなく似ている。
名前を呼んだら嬉しそうに駆け寄ってくるところとか、上目遣いで好き好きオーラだすところとか、機嫌がいいとピョンピョン飛び跳ねちゃうところとか…
すごく可愛くて甘やかしたくなる。
それに、意地悪した時の反応も面白くて、ついからかってしまう。
そんな彼女は英語が大の苦手。
俺は英語だけは得意だから、部活が休みの今日、図書室で彼女に教えてあげることになっているのだけれど…
「羽那…?」
彼女は窓際のテーブル席にテキストを広げて、そこに突っ伏して居眠りをしていた。
貸出カウンターに図書委員が二人座っている他、利用者は誰もいなかった。静まりかえった図書室。
西に傾き始めたバター色の陽光を背に、羽那はそれはそれは心地よさそうに眠っている。黒髪だと思っていた彼女の髪は、光を受けて艶やかな栗色に見えた。"スヤスヤ"といった言葉がぴったりと当てはまるような、あどけない寝顔がどうしようもなく可愛くて、永遠に見つめていられると思った。
それに、無防備に開かれた口、ぷるんと潤いのある桜色の唇が俺を誘惑する。
気づけば吸い込まれるように顔を近づけていた。
フルーティーな女の子らしい羽那の匂いを濃く感じた瞬間、「ん…」と羽那から声が漏れて羽那の瞼がピクピクっと動いた。
俺は急に我に返り、何もなかったように羽那から体を離して背を向けた。ドキドキと心臓が騒がしくなる。呼吸を整えるために深く息を吐いた。
落ち着けよ俺、こんなのは反則だろ…
しかも、こんなところで…
俺は、再び羽那の方へと向き直った。
一瞬目覚めたのかと思ったが、羽那は先程と寸分変わらぬ格好で眠り続けていた。
無防備なヤツ…
フフっと自然と笑いがこぼれた。
何やってんだか…
俺は、色白のマシュマロのような羽那のほっぺをぷにぷにと人差し指で優しくつついた。
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