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第111話
「そうなんじゃない。ていうか、元々俺はその線だと思ってたけどね! 君の所の猫ちゃんと同じ意見だよ」
「雅ですか? 雅は勘が良いですからね」
言いながら千尋が微笑むと、流星は怪訝な顔をする。
「もしかして、あんまり都に戻ってきたくない感じ?」
「何故です?」
「何かそんな雰囲気。いや、でも君は元々そういう所があるからよく分かんないな」
つまらなさそうな流星に千尋は肩をすくめて見せると、ポツリと言う。
「別に戻りたくない訳ではないですよ。ただ、気がかりな事があるだけです」
「気がかり? 人間界の行く末?」
「いいえ。もっと限定的な話ですよ。あ、そうだ。このままもしかして飲みに行ったりします?」
「うん、そのつもりだけど」
流星の言葉に千尋は軽く頷いて言った。
「では先に行っていてください。私は少し家に寄ってから向かいます」
「ああ、まぁその格好はちょっとね。どうしてそんなおめかししてきたの?」
「格好をつけたかったのかもしれません」
「格好をつける? 誰に対して?」
「内緒です。それではまた後で」
「はいは~い」
そう言って流星は片手を上げて街に向かって歩き出した。千尋はそれとは反対方向に歩き出す。
流星と別れて家に向かって歩いていると、あちこちからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。千尋は今や龍の都では罪人で、どこを歩いていてもあまり良い顔をされない。
しばらく歩いていると、ようやく屋敷が見えてきた。懐かしい都での千尋の住まいだ。
敷地内に入り庭を見渡すと、壁はあちこち剥がれかけているのに庭には相変わらず綺麗に手が入っている。こんな事をするのは一人しか居ない。執事見習いの楽だ。
「もういいと言っているのに」
困ったようにため息を落とした千尋が屋敷のドアを開けて中に入ろうとすると、二階の窓から声がかけられた。
「千尋さま! おかえりなさいませ!」
「楽、そんな所で何をしているのです?」
「屋根の雨漏り直してたんです! すぐそっち行きま――わぁぁぁ!」
「危ない」
千尋は小走りで庭を突っ切ると、急いで手を差し出す。すると、そこにコロンと小さな赤い龍が落ちてきた。
「相変わらずですね、あなたは」
「へへ、すみません。ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。それで? あなたはまだここを根城にしているのですか?」
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