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第479話
「青ざめてますよ、鈴さん」
「へ!? あ、す、すみません。何ていうかその、皆、思ってたよりも千隼の事可愛がってくれてるなって、その……」
「少し不安?」
「はい……大丈夫でしょうか。この調子で皆に持て囃されすぎて、その、何か勘違いした子になってしまったら……いえ! 千尋さまの子なのですから勘違い出来るぐらいには強くて優しくて綺麗な子になるとは思うのですが、その、半分は私の血だと思うと、そこに鈍臭いとかお転婆とかそういう要素がプラスされてしまうのでは……と」
「ふはっ! す、すみません。いえ、あなたの言いたい事は分かりますが、私としては鈴さんの要素もたっぷり入っていて欲しいですし、その方が可愛げがあって良いじゃないですか」
青ざめて一体何を考えているのかと思ったら、どうやら鈴は千隼の将来について不安になっていたようだ。そしてその理由があまりにも可愛らしくて思わず笑ってしまった。
その時、千隼が手足をバタつかせてぐずり始めた。それを見て鈴がそっと手を差し出すと、千隼は途端に笑顔になる。
「どうしたの? パパのとこ行く?」
鈴が問いかけると、千隼はまた手足をバタつかせ、今度は千尋の方に身体を傾けてきた。そんな千隼を受け取った千尋は千隼を持ち上げて正面から覗き込む。
「おや、もう父親を認識しているのですね」
「当然です! 毎日千尋さまの事を話していましたから。ね? 千隼」
その声に千隼は嬉しそうに笑い声を上げる。その時、部屋がパシャリと二回光った。
「ん?」
ふと視線を光った方に向けると、そこには勇と楽が同じ体勢をしてカメラを構えている。
「あ、すみません、つい。凄く良いなって思って」
「も、申し訳ありません! 龍神さまの許可もなく!」
「いえ、構いませんよ。楽、その調子で千隼と鈴さんの写真もしっかりお願いしますね。もちろん私があちらに戻った後も、沢山記録を残しておいてください」
「はい! おい、鈴こっち向けよ。千隼もだぞ!」
楽の言葉に千尋と鈴は顔を見合わせて楽と勇の方を向いて笑顔を浮かべた。きっと、素晴らしい一枚になるはずだ。
「後で庭で皆で写真を撮りましょう。どうせ明日からは引っ切り無しに色んな方達がお祝いだと称して千隼の儀式をしに来ますから」
笑いを噛み殺しながら千尋が言うと、そんな千尋を拗ねたように鈴が見上げてくる。
「そうだよ、あんた達! もう幸之助達には産まれた事連絡したから、明日から忙しくなるよ。今のうちに思い切り千隼を愛でておきな。何せ龍神の子どもが生まれるなんざ、この地上が始まって以来の快挙なんだからね!」
「それじゃあ私達はそろそろお暇した方がいいのかしら?」
マチが神妙な顔をして言うと、雅が眉を吊り上げた。
「何言ってんだ! あんた達にはまだ帰ってもらっちゃ困る! 明日の料理とお菓子も作らないとなんだから。あんた達はもう親戚だ。菫はともかく、マチは頼んだよ!」
「は、はい!」
「お、俺は何か役に立つでしょうか……雅どの」
「あんたは楽と一緒にこの三人の写真を撮ってすぐに現像しな。これから千尋がいつ迎えに来るか分からないんだから、こいつが戻る前に大量の写真を渡すよ」
「はい!」
「ねぇ雅、私はともかくってどういう意味?」
「いや、あんたは料理の手伝いはちょっと……鈴と一緒に千隼の面倒見てな」
「……分かったわよ」
口では拗ねた振りをしながらも、菫の顔は嬉しそうだ。
「それではあなた達の部屋も用意しておきましょう。雅、頼みましたよ」
「ああ、任せときな!」
「あ、私もお手伝いに――」
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