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第110話
雅に言われて鈴がじっと庭を見つけていると、ゆっくりと光の柱が庭の真ん中に現れた。それを見て息を呑んだ途端、今まで以上に大きな雷鳴が轟く。
「あ……凄い……」
物凄い音で怖かったはずなのに、それ以上に目の前の光景に鈴は目を奪われる。
光を浴びた千尋の姿は徐々に龍に変化していき、やがて庭にかろうじて収まるぐらいの大きな龍に変わったのだ。
千尋はチラリとこちらを見て目を細めるとそのまま光の方を向いて上昇していく。
手にはしっかりと鈴が渡した風呂敷が握られていて、何だかそれがおかしかった。
千尋はそのまま屋敷の上辺りまでゆっくり昇ると、屋根を越した途端、物凄いスピードで空を駆け上っていく。
その姿はあっという間にそのまま雲間に隠れて見えなくなってしまったが、何だかまるで夢でも見ていたような気分だ。
ぼんやりといつまでも空を眺めていた鈴に、雅が声をかけてきた。
「今日はやけにのんびりだったね」
「きっと龍の姿を見せてくれたんだと思います」
「そうかい? あいつがそんな優しいかね?」
「はい! とても」
「あんたの風呂敷ちゃんと持ってたじゃないか」
「夜更かしした甲斐がありました」
その後、空はさっきまでの雨と雷が嘘のように晴れ渡り、星が輝き出す。
今日見た事はきっと、一生忘れない。
鈴は雅を胸に抱いて、飽きるまで星空を眺めていた。
♠
龍の都に到着すると、そこには友人の流星が金色の髪を靡かせながら腕を組んで仁王立ちで待っていた。
「随分と遅かったね、千尋くん」
「すみません。少し野暮用で」
「君がそんな返答するなんて珍しい。どっか打った?」
「いいえ、どこも。それよりも久しぶりですね、流星」
「ほんとだよ。息吹も待ってるよ。あと……初も」
そう言って流星は少しだけ視線を伏せた。何か事情があるのか、流星は千尋の視線を避けるように歩き出す。
「君が居ない間に色々進展したんだよ。もしかしたらもうすぐ君も戻れるかも」
「そうなんですか? 犯人が見つかったのですか?」
「んーん。いや、見つかりはした。でも、死んでた」
「自死?」
「いや、あれは他殺だね。息吹が詳細を調べ尽くすって躍起になってる」
「他殺ですか。ではやはり黒幕が居たのでしょうか」
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