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第112話
「根城だなんて! 俺は俺の仕事を全うしているだけです!」
「私は追放が決まった時に全員解雇しましたよね?」
何せ100年に一度しか帰って来ないのだ。誰かを雇っているのははっきり言って無駄だ。
けれどいくら言い聞かせても、この楽という執事見習いだけはここを立ち退かない。
「されましたけど、絶対に俺はここの立派な執事になるって千尋さまに拾われた時に思ったんです! 初志貫徹ってやつです!」
「難しい言葉を知っていますね。偉いですよ。ですがそれとこれとは話は別です。大体どうやって生活をしているのですか?」
「え? 配給と分配金ですけど?」
「食べる物には困らないでしょうが、それだけでは趣味や娯楽を楽しむ余裕は無いでしょう?」
「俺の趣味と娯楽はこの家を守ることなんで、問題ないです!」
「……そうですか」
これはもう何を言っても無駄だ。そう悟った千尋は楽の手の平に金貨を置く。
「これで新しい服を買ってきなさい。肘と膝が擦り切れそうですよ」
「え、で、でも」
「あなたはうちの執事なのでしょう? でしたら、しかるべき格好をしてください」
諦めて千尋が言うと、楽は途端に顔を輝かせて頷いた。
それから楽と共に屋敷に入った千尋は、ピカピカに磨き上げられた調度品や床、そして壁を見て苦笑いを浮かべる。
どうやら楽は本当にたった一人でこの屋敷を磨き上げていたようだ。
「ところで千尋さま、それは何ですか?」
居間に移動した千尋に、お茶を持ってきた楽が不思議そうに尋ねてきた。
千尋が里帰りをする時に何か持って帰ってくるのは本当に珍しい。この間など鈴と行った買い物が楽しすぎて皆にお土産まで買ってしまった。
「これですか? これは皆へのお土産と弁当です」
そう言って千尋は鈴から受け取った弁当が入った風呂敷を撫でた。それを聞いて楽は目を丸くする。
「お土産と……弁当!? ち、千尋さまが!? 弁当なんて食べるんですか!?」
「私だって必要とあらば弁当だって食べますよ」
「や、ちょっと待ってください。俺を担いだって何も楽しくないですよ? 土産でもビックリしてるのに弁当は……嘘ですよね?」
「嘘ではありませんよ、ほら」
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