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第481話
「それじゃあその時は俺が手伝います!」
「ええ、お願いしますね。それにしても角は洗いにくそうですね」
「全くだよ! 何でこんな入り組んだ構造してんだ!」
角の隙間に指を突っ込んで洗ってやりながら、雅が鼻を鳴らした。結構雑く洗っているように見えるが、あれで良いのだろうか?
「水龍は一番角の分岐が激しいのですよ。楽の角は分岐など無かったでしょう?」
「言われてみれば……それに流星さまのは角の先が二本に分かれていました!」
「そうなの?」
「うん。よく絵に描いてあるみたいな角だったよ」
「へぇ、面白いのね。楽、今度あなたのも見せてよ」
「いいけど……小さいって馬鹿にしない?」
「しないわよ。何よ、あんた小さいの?」
「今は大分デカくなったけどな! それでも千尋さまほどじゃないよ」
「そうです! 楽さんは最初ここへ来た時は、これぐらいだったんですよ! それが今はとても立派になられて……」
思わず楽が神森家にやってきた時の事を思い出した鈴が身を乗り出して言うと、楽は慌てたように鈴の口を塞ごうとする。
「言うなよ!」
「ご、ごめんなさい!」
「いいじゃないですか。誰にだって小さい頃はあるものですよ。千隼が龍の姿に変われるようになったら楽、頼みましたよ」
「はい!」
千隼の沐浴を終えて千隼をマチ達に預け、ようやく鈴が自分の事を終えた頃にはすっかり遅くなっていた。
千尋の寝室に戻ると、千尋は寝台の上で千隼を寝かしつけていたのか、千隼の胸の上に手を置いてすっかり眠り込んでいる。
鈴はそんな光景をこっそり写真に撮って自分も寝台に横になって目を閉じた。千隼を挟んで親子三人で眠る事が出来るのはあと何日なのだろう。そんな事を考えていると、そっと頭に何かが触れた。
驚いて目を開けると千尋が今度は鈴の頭を撫でてくれている。
「そんな顔をしないで、鈴さん。どうか良い夢を見てください」
「起きていたのですか?」
「ええ、今しがた。鈴さんの気配がしたので。私はどうやら千隼を寝かしつけながら眠ってしまっていたのですね」
苦笑いを浮かべた千尋に鈴も笑顔で頷いた。千尋もまた鈴に力をずっと使い続け、疲れているのだ。
「思わず写真を撮ってしまいました」
「そうなのですか? それには全く気づきませんでした……では、明日の朝はあなたと千隼を撮ることにしましょうか」
「えっ!?」
「いけませんか?」
「い、いけなくはないですが、私の寝顔と千尋さまの寝顔では天と地程の差があると思うのですが……」
「そんな事はありません。私にとってあなたの寝顔はとても安らぐのですよ。だから出来るだけ悲しい顔をして眠らないで欲しいのです」
「千尋さま……はい」
それは鈴もだ。穏やかに眠る千尋を見ると安心する。思わず微笑んだその時、ふと視線を感じて二人して千隼を見ると、千隼は目をぱっちり開けて鈴と千尋を凝視している。
「お、起きてる……」
「……起きてますね」
その瞬間、千隼は闇を切り裂きそうな程の声で泣き始めたのだった――。
翌朝、鈴と千尋は二人してぐったりとして寝室から出ると、そこにはマチと雅が何故かニコニコしながら立っていた。
「叔母様、雅さん……おはようございます」
「おはようざいます、二人とも」
「はい、おはようさん。で、どうだった? 子育て一日目は」
何故か嬉しそうな雅を軽く睨みつけた千尋は、すやすや眠る千隼の頬を突きながら言う。
「戯ける暇もありませんでした」
「そうだろうね! ははは!」
「……嬉しそうですねぇ、雅」
「まぁね! さ、朝食朝食!」
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