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◆
みぃ、みぃ。
鳴き声と段ボールがごとごと揺れる音で我に返る。
どれだけ、時間が経っていたんだろう―――。
目を開くと―――赤―――。
視界に飛び込んできたのは皮膚が破れて肉が剥き出しになった右腕だった。
ずたずたに喰い裂かれた右腕を目にした瞬間、突き抜けるような痛みが右腕から全身にはしる。
また、やっちまった―――。
口の中に残るのは俺自身の肉の味だ。
子猫を育てるためにマシな生物になろうと決意したのに結局、その決意も数分と持たなかった。
腹でも減っているのだろうか。子猫は訴えるようにひっきりなしに鳴いている。
昨日までは鳴く元気も無かったのにな。
様子を見てやらないと。
腕を押さえて段ボールの元へと向かう。
歩く度に、床に、ゴミの上に、脱ぎ散らかした服の上に血がぼたぼた滴り落ちる。
溢れる血も熱を帯びて勃ったままのそれも生きている証であった。そして、束の間、子猫を忘れて果てた罪の証でもあった。
このアパート、ペット禁止だったったっけ?
今さらそんなことを考えながら、段ボールの中を覗く。
段ボールの中では子猫が覚束ない足取りで歩き回っていた。
出口でも探しているのだろう。見ていると、箱の端に向かって歩いては行き止まりだと分かると、また戻ってを繰り返している。
よかった、こいつを噛まないで―――。
子猫を見た瞬間、咄嗟にそう思った。
動悸が早くなる。頭の中に悪い考えばかりが浮かんできて血だらけの手で顔を覆った。
もし、飼っているうちにこいつの血が見たくなってしまったら?
箱を一つ隔てた先にいる男がそんなことを考えているとも知らず、子猫は鳴き続ける。
腹が減ったから鳴く。
誰も傷付けることのない本能が羨ましかった。
あぁ、今、己の本能に従って生きてきた報いを受けているのだなと思った。
本能をコントロールできない社会不適合者に生き物を飼う資格なんてない。子猫一匹育てられないことが死にたくなるくらい惨めだった。
誰かと一緒に暮らせば、俺はいつか、そいつを喰い殺してしまう。
そのことがはっきりと分かった。
段ボールの側面をかりかり引っ掻いて外へ出ようとする猫の姿が滲んだ。
だらりと右腕が垂れる。熱い血が腕を滴る。
荒れ果てた部屋の中に空腹を訴える鳴き声が響いていた。
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