最終章 地獄の子

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 「……手当てはいい。」  そう言って、シャチの手を振り払う。  「おい!」  俺の行動を予想していなかったのだろう。シャチは驚きと心配の入り混じった顔で俺を見る。  「そのままでいいわけねーだろ、ばい菌が入ったら大変なことになるぞ!」  「―――猫を頼む―――。」  両手で段ボールをしっかり抱えて言う。  箱の中の子猫が不安そうに俺を見つめているように感じて俯いた。  「えっ……。」  「おまえの言う通り、俺は人喰いザメだ。……多分、ガキの頃からずっと。サメは皆そうだが、血を見ると興奮する。……それでも、自分(テメェ)から血を見るために相手を、自分を傷付けるような奴を俺は見たことが無ェ。」  話しながら胸が焼けるように痛む。  まるで懺悔でもしているかのような気分だ―――いや、実質これは懺悔だ。 一つの命を捨てる罪への―――。  「いつからそうなっちまったのか、覚えてる限りでは十三の頃だ。学校でホホジロザメだからって理由で毎日毎日リンチしてきたヤンキー共を殴り返したその時からだ。」  遠い昔のことなのに、その時の血に染まった手の温かさを、臭いを、全身を貫いた興奮と快楽を今でも生々しく覚えている。  「それから、だ。俺の全身が血を欲している!ドラッグよりセックスより暴力の方がずっとずっと気持ちがいい!誰かと……あぁ、それでこそおまえに噛み付いた時みたいに痛みを通して誰かと繋がりたい衝動を抑えられないんだよ、歳取った今でもなァ!」  話す声が震えて視界が涙で滲んだ。死にたくなった。シャチは黙って俺の話を聞いている。  「……それなのに昨日猫なんて拾っちまった。一晩だけ預かるつもりだったんだが、群れるのも悪くないと、育ててみようと思った。でも、今朝になったら自分で自分の腕をこんなにしちまった……クソッ……。」  ぼたぼた雨みたいに涙が子猫の体に落ちる。自分の体を濡らす水の出どころを子猫は大きな目で見上げる。  「……分かっただろ?こんな奴が猫なんて育てたらいつか殺してしまう。俺は誰かと生きていけない、群れちゃいけない。ましてやおまえみたいに誰も救えない。 頼む―――」  無我夢中で頭を下げる。誰かに頭を下げるのなんて―――しかも猫ごときのために―――何年ぶりだろう?  「―――俺の代わりにこいつを育ててくれ。」  
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