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取り留めもなく湧き上がる雑念に終止符を打つように傷口にボトルの消毒液を直に流してかける。
消毒液が沁みて鋭い痛みが脳天に向かって突き抜ける。痛みのあまり、埋めき声が漏れた。
アルコールと血の臭いは一セットだ。
―――なぜだろう。
子どもの頃から痛みを感じると同時に何かから許されているような気がした。
何から許されているというのだろう?
生きること?現実と向き合うこと?傷付くこと?―――恐らく、全部だ。
消毒液をかけた傷口にそのまま包帯を巻いていく。きつく、包帯に滲む血が少なくなるまで何重にも。直接圧迫止血法と原理は一緒なはずだ。たしかな知識がないのは学がないからで、何に関しても学ぶ気がないのはそこまでの熱意がないからだ。
"はず"だけで三十ニまで生きてしまった。
それで、いいのか―――。
時折、そんな疑問が首をもたげる。
―――いいわけないだろ。
浮かんだ問いに胸の中で即答する。
じゃあ、どうすればいい?
一から勉強してみるか?裏稼業から足を洗って堅気の仕事に就くか?
くだらない妄想ばかりでやろうとは思わない。
それに、一つだけ分かることがある。
いくら人並みに生きようとしても、俺はまともな暮らしを送れる人種ではないということ。
まるで、そこにあるというかのように包帯の下の傷が痛む。
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