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郁美さんも僕も大学を卒業して数年したころだろうか、風の便りでどこからともなく、彼女が風見先輩と結婚したという話が入ってきた。
ほんのひととき、彼女のそばにいて孤独から癒やされていた僕は、結局秤にかけられ完全に敗れ去ったことを改めて思い知らされたのだった。
もはや寂しさも悔しさもなかった。
ましてや喪失感というものでもなかった。
生きるのって、こんなに空っぽなことだったんだ。
そういうことに漠然と気づいただけだったと思う。
僕は当時涙もろい青年であったが、彼女についてはただの一粒さえも涙は出なかった。
この頃には、僕は想う誰かと心でつながり合うことは、もうそうそうないのだとして、自分自身を見切り始めていた。
それで、少年期そして青年期に渡る、疎外感を強くした長く暗く冷たいトンネルは、もはや生きて出られる気がしなかった。
(了)
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