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それは、二十歳のころの恋だった。
その大学で僕は、とある芸術系のゼミに属していた。
今ではなくなってしまった制度と聞いたが、当時は一回生の時から在学生は全員、どこかしらのゼミに所属することになっていた。
それで、一週間に一度ある特定の教授のゼミの場に一回生から四回生が集い顔を合わせるといった、他大学にはない特異なシステムだった。
僕は、そのゼミで知り合った一歳上の女性の先輩に恋をしていた。
その名は、郁美さんといった。
僕はあの頃から倍以上の歳を重ねたが、それでも何かの折につけて、ふと彼女とのことを思い出すのである。
「今ごろ郁美さんは、どうしてるかな」といったごくありきたりで情味のない思いではなく「あれは、郁美さんとは元からそうなるようになっていたのだろうから、どうしょうもなかったよな」という感傷的な振り返りである。
僕はそれを、結局長年にわたり胸の奥で反芻している。
それはいったい、なぜなのだろうか。
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