第1話 桜・3

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 もちろん、そんなのは嘘だ。  用事がない限りは「昼は学食で」と菊池たちと待ち合わせしている。それをブッチし(ぶっちぎっ)て、しかもその理由が家永への昼食の差し入れ。菊池から聞いて、美羽には納得できずダッシュでここ・理科学教棟までやってきたのだ。  門脇の「よし」は出てなかったが、言うべきことは言ったのだ。義務を果たした当然の権利とばかりに、家永はペリリッとご褒美のカツサンドのテープを剝がしながら、 「まだ4月も始まったばかりというのに、レポート提出とは……」  思いついたままを口にした。 (秒でバレた!)  と思った美羽は、 「嘘じゃないもんっ! 本当だもんっ! それより、私だって欲しいんだからねっ!」  絵に描いたようにテンパった。  門脇に 「何を?」  と聞かれ、するりと 「かd……」  と言いそうになったくらいである。  うっかり口が滑りそうになって、あわわと自分で口を塞いだ。 (あ、あやうく勢いで告白するところだった……)  4年間、大切に温めてきた思いを怒りと焦りと勢いで告白だなんて、悲し過ぎる。  だが、家永が 「……やらんぞ」  冷ややかに言い切った。 「な、なによー! 偉そうに!」  もはや教官に対する言葉づかいではない。 (むちゃくちゃ偉い人に、御前崎は何を言ってるんだ?)  これには門脇も引き気味だ。 「ちょっと門脇君の指導教官になったからって、イニシアチブ取った気にならないでよね!」 「門脇君の指導教官になったからといって何なのだ?」  家永は、パクリとカツサンドに食いついた。 「ムキー! 何よ、先生! めちゃ分かりやすい宣戦布告!」  とてもミス慶秀大とは思えぬ、余裕のない言動。  家永は取り合わず 「みんなが欲しがるレアものだ」  今度は門脇がそっと横から差し出したコーヒーを開けた。 「それは分かってるわよ! みんな大好きかd……あわわわわ!」  美羽のうっかり暴露パート2である。
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