第1話 桜・3

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(怒ったり、焦ったり、慌ただしいミスだな)  ミス慶秀大ともなれば、大学の広告塔でもある。メディアの取材では、一番に声をかけられる存在だ。  家永の目には、敬語も使えないケンカ腰の落ち着きのないなんともお粗末な若者にしか見えなくて (……うちの学校、大丈夫か? こいつの迂闊な言動ひとつで大炎上もありえそうだが、そうなったら目も当てられんぞ)  と不安を覚えた。  そんな美羽に同情の余地もない。 「君がなんと言おうと、カツサンドはやらん」  食欲赴くままに、家永はカツサンドを頬ばった。  なんというか、一度火が付いた食欲には抗えない……という感じだ。合間合間に「香り芳醇コーヒー」で流し込んでいる。 「か……?」  美羽の目が点になった。 「…………つ、さんど?」  やけにゆっくりと美羽が、家永の言葉を復唱する。 「御前崎。そんなにカツサンドが欲しかったのか?」  と門脇が聞く。 「え? ……ええ?!」 (私が欲しいのは門脇君なんだけど……?)  何かがおかしい。  だが、それに気付く前に (やっだー! 私ったら『門脇君が欲しい』だなんて……)  そちらに気付いて、美羽は一人でニヘラっと笑ってしまった。  見る者を虜にしかねない美羽の笑顔だったが、このタイミングで笑っても、ただ門脇と家永は引くだけだった。怪訝に思いつつも、家永は今度はフワフワのたまごサンドにパクついた。 (よく食うなぁ。さすが朝食抜き)  それを横目に見ながら、家永につられるように門脇も香り芳醇コーヒーを開けた。 「確かに、今、購買部に行っても、みんな大好きレアものサンドはもう売り切れているだろうけど。だからって、先生の取るなよ」  正直、自分が買えたのが不思議なくらいだ。購買部で売られているのを見た時には、門脇は「幻では?」と二度見三度見した。 「え……? 取らないわよ」  そこで美羽は気付いた。 (もしかして……?)  門脇が敢えて美羽の言い方を真似てくれたので、分かった。 (私の踏みとどまった「か」は、「どわき君」の「か」ではなく「つサンド」の「か」と受け取られてる?)  ドレミの歌的に、美羽はようやく理解できた。
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