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「ねえ、門脇君?」
美羽がちょいちょいと手招きすると、
「なんだ?」
と門脇が、研究室扉の美羽の所までやってきた。
美羽は意味深にチラリと家永を見ると、門脇の耳に唇を寄せて
「さっき『門脇君が欲しい』って、家永先生に無理矢理言わせてなかった?」
声を潜めて尋ねた。
「ああ。それな。聞いてたのか?」
「き、聞こえただけよ! 盗み聞きしたわけじゃないわ!」
美羽は軽く自爆していた。
「俺がわざわざ家永研究室への希望出して来たっていうのに、素直に嬉しいってなかなか言わないから、無理矢理言わせてただけだ」
「…………うらやましっ!」
(門脇君に「欲しい」って、私も無理矢理言わされたい!)
思わず美羽の本音がポロリだが、門脇は
(今の会話のどこに羨ましい要素があっただろうか?)
と考えた。
「なんか羨ましいことなんかあったか?」
「ううん。全然ないわ。それは、素直に言えない家永先生が悪いと思うの」
(ミス。情緒不安定だな……)
家永の親指には、齧り付いたはずみでこぼれてしまったタマゴが付いていた。それをペロリと舐め取りながら、思った。
「カツサンドもタマゴサンドも取らない。だから門脇君。一緒に学食行こうよ!」
「いや、俺は先生とカツサンドを食う。……ってか、先生、俺の分を残しておけよ」
二つ目のカツサンドを開けようと伸ばした家永の手から、門脇は慌てて奪い取った。
しっかり一人分は食べたというのに、家永はまだ食べたりないというのか。
「……金を出したのは、俺だ」
「買いに行ったのは、俺だっつーの」
「門脇君は、ミスと一緒に学食に行け」
「俺だって幻のカツサンド食いたいんだって」
家永と門脇。研究室でカツサンド所有権を大人げなく主張する中、あっさりと振られた美羽がジタバタとこれまた子どものように暴れた。
「行こうよ、行こうよ! 家永先生も、せっかくこう言ってくれてるんだし」
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