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第2話 シロツメクサ・1
「ちょっと早かったか……」
4月の第三土曜日。
混む時間帯でもなければ、ドリンクバー真後ろのその席は大抵空いている。
家永は、待ち合わせのファミレスに着くと、いつもの席に知己が見当たらずに独り言ちた。
3月もそこで会い、ブレンド、スペシャルブレンド、カフェ・ラ・テとドリンクバーのコーヒー部門を順番に飲み、近況を語る。
気が向けば、そこから映画や買い物に行ったり、気になる特別展やっている博物館へ出向いたりもするが、大抵はそこで語りつくして終わりだ。時にはほとんど語らず、のてのて過ごすことさえある。学生時代から10年以上も付き合うと、そんな何もしなくても気にならない関係になっていた。
友達というよりも家族に近しい……親友という言葉がぴったりな存在だった。
お互いに友達と呼べる人間は、そこまで多くない。
広い友達付き合いするよりは、好きなことをしていたいインドア派。よく言えば少ない友達と親密に付き合うタイプ。悪く言えば、いい年した大人なのに知らない人との会話が面倒で苦手な人見知り、理科オタクな二人だった。
ただ2月は違った。
親友の平野知己が、同じ高校に勤める坪根卿子を伴って来たのだ。
知己が
「卿子さんに、ファミレスはダメだ。もっとおしゃれな店を」
というので、駅から近いショッピングモール街の少し離れた所にある、いい雰囲気の珈琲店にした。大きな自家焙煎機が店頭に飾られ、店の外までコーヒー特有のいい香りがほんのりと漂ってくる店だった。
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