第2話 シロツメクサ・1

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「当たり」 「大方、その近くに生えていたものの種が飛んだのだろう」 「それも当たり。凄いな、家永。レストランの花壇の脇にクローバーが自生してた」 「四つ葉のクローバーは突然変異で発生したというよりも、環境が要因して生まれたものがほとんどだ。雑草故に生命力は強い。踏まれて傷んだ葉が四つ葉になっただけ」  せっかく見つけた幸運のアイテムがただの雑草魂といわれて、知己は不満そうだ。 「……家永と話すと、夢もロマンもなくなる」 「お前だって知ってただろう。生物の授業で習った筈だ」  高校理科教師の知己に言えば、 「そうだったか?」  と知己は昔の記憶を手繰った。  とりあえず今の高校では、家庭でできる楽しい実験をメインに、生徒たちになんとかテストの点を取らせることで精一杯だ。 「……いや、待てよ」  知己は考えた。 「今の話、生物の遺伝の説明の所の授業で使えないか?」 「俺に相談するな」  難関校で有名な慶秀大生VS名前を書けたら入れる八旗高校生。授業対象にする生徒に違いがあり過ぎる。 「あいつら、身近な話題じゃないと食いついてこないんだ」  そのため知己は、みりんからアルコール抽出を、除湿剤やミョウバン、塩から炎色反応の実験をやり続けている。毎度毎度の準備に手間がかかると以前、ぼやいていたのを家永は思い出した。 「……大変だな」  そういうと家永はブレンドコーヒーを飲みほした。空になったカップを見つめて (次のスペシャルブレンドを取りに行こう)  と思いながら 「じゃあ、こう言ってやれ。『四つ葉を探すときは、誰かが歩いた道の付近を探せ。運が良ければ、五つ葉や六つ葉も見つかるぞ』ってな」  家永的には最高のアドバイスをした。  だのに 「……家永」  なんだか知己が困ったような表情を浮かべている。 「四つより葉っぱが多いのは、逆にアンラッキーアイテムって言われているんだが」 「……生物学的には超ラッキーなのに」 (価値観が違うな)  家永は、自分の理科常識と一般常識の差を感じ、 (腑に落ちん……)  と思った。
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