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「当たり」
「大方、その近くに生えていたものの種が飛んだのだろう」
「それも当たり。凄いな、家永。レストランの花壇の脇にクローバーが自生してた」
「四つ葉のクローバーは突然変異で発生したというよりも、環境が要因して生まれたものがほとんどだ。雑草故に生命力は強い。踏まれて傷んだ葉が四つ葉になっただけ」
せっかく見つけた幸運のアイテムがただの雑草魂といわれて、知己は不満そうだ。
「……家永と話すと、夢もロマンもなくなる」
「お前だって知ってただろう。生物の授業で習った筈だ」
高校理科教師の知己に言えば、
「そうだったか?」
と知己は昔の記憶を手繰った。
とりあえず今の高校では、家庭でできる楽しい実験をメインに、生徒たちになんとかテストの点を取らせることで精一杯だ。
「……いや、待てよ」
知己は考えた。
「今の話、生物の遺伝の説明の所の授業で使えないか?」
「俺に相談するな」
難関校で有名な慶秀大生VS名前を書けたら入れる八旗高校生。授業対象にする生徒に違いがあり過ぎる。
「あいつら、身近な話題じゃないと食いついてこないんだ」
そのため知己は、みりんからアルコール抽出を、除湿剤やミョウバン、塩から炎色反応の実験をやり続けている。毎度毎度の準備に手間がかかると以前、ぼやいていたのを家永は思い出した。
「……大変だな」
そういうと家永はブレンドコーヒーを飲みほした。空になったカップを見つめて
(次のスペシャルブレンドを取りに行こう)
と思いながら
「じゃあ、こう言ってやれ。『四つ葉を探すときは、誰かが歩いた道の付近を探せ。運が良ければ、五つ葉や六つ葉も見つかるぞ』ってな」
家永的には最高のアドバイスをした。
だのに
「……家永」
なんだか知己が困ったような表情を浮かべている。
「四つより葉っぱが多いのは、逆にアンラッキーアイテムって言われているんだが」
「……生物学的には超ラッキーなのに」
(価値観が違うな)
家永は、自分の理科常識と一般常識の差を感じ、
(腑に落ちん……)
と思った。
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