第2話 シロツメクサ・2

2/9
前へ
/217ページ
次へ
「どうした?」  けはけはと咳き込む家永に、知己はテーブル脇に置いているペーパーを取って渡した。  家永は口元を拭きながら 「……いや、ちょっとびっくりして」  モゴモゴと小声になっていた。 「え? 俺、なんかびっくりするようなこと言ったか? 文学科の御前崎が、一般教養で家永生物の授業取ったはいいけど単位降りなくて、荒木化学に救いを求めてそうだと思ったんだけど」  今度は知己が、原宿だか銀座だかどこぞの占い師の「母」並みに、先日の御前崎の行動を言い当てた。 「平野。お前……、あそこに来たのか? 見てたのか?」 「なんだ、それ? 俺、なんかに勝ったのか?」  古代ローマ人の勝利報告(※)のような話に、知己はキョトン顔だ。 「……90点だ」  家永は、知己の考察の当たり具合を採点したら 「うん?」  と聞き返された。 「Cだったけど、俺はちゃんと単位を下ろした。そこが違うだけで、後は全部当たりだ」 「Cなら70点じゃないのか?」  知己は、ますます混乱に陥るだけだった。  顔には出さないが、困惑しているのは家永も同様だ。 (慌てるな、俺)  と、スペシャルブレンドコーヒーを啜る。 (まだ、ミス慶秀大(御前崎美羽)の話じゃないか。そこから門脇君まで話がつながるとは限らないだろ。焦るとボロが出る。落ち着け。落ち着け。落ち着……)  なんとかして、この場を乗り切ろうと考えていたが 「そういや、門脇達は元気か?」  残念ながら、知己の頭の中では、御前崎美羽からダイレクトに門脇に繋がってしまっていた。 (※)「来た、見た、勝った」は、ラテン語の「Veni, vidi, vici」という紀元前ローマ時代・カエサル将軍の勝利報告の言葉。 「ブルータス、お前もか」と言った人と同一人物です。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加