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「どうした?」
けはけはと咳き込む家永に、知己はテーブル脇に置いているペーパーを取って渡した。
家永は口元を拭きながら
「……いや、ちょっとびっくりして」
モゴモゴと小声になっていた。
「え? 俺、なんかびっくりするようなこと言ったか? 文学科の御前崎が、一般教養で家永生物の授業取ったはいいけど単位降りなくて、荒木化学に救いを求めてそうだと思ったんだけど」
今度は知己が、原宿だか銀座だかどこぞの占い師の「母」並みに、先日の御前崎の行動を言い当てた。
「平野。お前……、あそこに来たのか? 見てたのか?」
「なんだ、それ? 俺、なんかに勝ったのか?」
古代ローマ人の勝利報告(※)のような話に、知己はキョトン顔だ。
「……90点だ」
家永は、知己の考察の当たり具合を採点したら
「うん?」
と聞き返された。
「Cだったけど、俺はちゃんと単位を下ろした。そこが違うだけで、後は全部当たりだ」
「Cなら70点じゃないのか?」
知己は、ますます混乱に陥るだけだった。
顔には出さないが、困惑しているのは家永も同様だ。
(慌てるな、俺)
と、スペシャルブレンドコーヒーを啜る。
(まだ、ミス慶秀大の話じゃないか。そこから門脇君まで話がつながるとは限らないだろ。焦るとボロが出る。落ち着け。落ち着け。落ち着……)
なんとかして、この場を乗り切ろうと考えていたが
「そういや、門脇達は元気か?」
残念ながら、知己の頭の中では、御前崎美羽からダイレクトに門脇に繋がってしまっていた。
(※)「来た、見た、勝った」は、ラテン語の「Veni, vidi, vici」という紀元前ローマ時代・カエサル将軍の勝利報告の言葉。 「ブルータス、お前もか」と言った人と同一人物です。
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