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「門脇は、家永に一体何を言わせようと……?」
心なしか、知己の声が震えている気がした。
「俺からちゃんと【門脇君が欲しい】って言われたかったんだろ?」
「……」
「どうして黙り込む」
「……やっぱり門脇と……その、そういう関係になったのか?」
「なぜ、そうなる」
「俺に遠慮……なんか、しなくて…………………いい、のに」
「平野の方こそ、なんかぎこちない言い方だぞ」
「……それは、その……」
なんだろう、この焦りにも似た喪失感は。
(なんだか……家永と切り離されたかのような)
遠い存在になるような感覚。
坪根卿子の時もそうだった。
今、門脇の話を聞いた時もそうだ。
自分はちゃっかり中位将之と付き合っておきながら、親友の家永が誰かと付き合うとなると、なぜこんなにも寂しい気持ちになるのか。
(俺が欲張りってことか……)
親友の幸せを素直に喜べない。
親友という名で、家永の一番のポジションにいたい。
そこは誰にも譲りたくない。
自分は、どれだけ狭量なのだと知己は思った。
「性格には難アリだが門脇君ほどの逸材は、どこの研究室も欲しかったはず。そんなドラフト1位の優秀な人材からの逆指名。有難く思えってことだろ?」
「あ、あぁ。そういう意味……」
それでも、門脇の自意識過剰にもほどがある。
「だけど、教官からは特に意思表示なんかないだろ。学生は『研究室決定』のお達ししか行かないから、敢えて俺からも『来て欲しかった』って言ってほしかったんだろ?」
「それで?」
「うん?」
「それで家永は言ったのか? その……、か『門脇が欲しい』って……」
「言った」
あっさり答えた家永に
「言ったのか?!」
と知己は聞き返した。
(……なぜ、俺は平野に咎められているのだろうか?)
家永は、やはり
(腑におちん……)
と思った。
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