第2話 シロツメクサ・2

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「門脇は、家永に一体何を言わせようと……?」  心なしか、知己の声が震えている気がした。 「俺からちゃんと【門脇君が欲しい】って言われたかったんだろ?」 「……」 「どうして黙り込む」 「……やっぱり門脇と……その、そういう関係になったのか?」 「なぜ、そうなる」 「俺に遠慮……なんか、しなくて…………………いい、のに」 「平野の方こそ、なんかぎこちない言い方だぞ」 「……それは、その……」  なんだろう、この焦りにも似た喪失感は。 (なんだか……家永と切り離されたかのような)  遠い存在になるような感覚。  坪根卿子の時もそうだった。  今、門脇の話を聞いた時もそうだ。  自分はちゃっかり中位将之と付き合っておきながら、親友の家永が誰かと付き合うとなると、なぜこんなにも寂しい気持ちになるのか。 (俺が欲張りってことか……)  親友の幸せを素直に喜べない。  親友という名で、家永の一番のポジションにいたい。  そこは誰にも譲りたくない。  自分は、どれだけ狭量なのだと知己は思った。 「性格には難アリだが門脇君ほどの逸材は、どこの研究室も欲しかったはず。そんなドラフト1位の優秀な人材からの逆指名。有難く思えってことだろ?」 「あ、あぁ。そういう意味……」  それでも、門脇の自意識過剰にもほどがある。 「だけど、教官からは特に意思表示なんかないだろ。学生は『研究室決定』のお達ししか行かないから、敢えて俺からも『来て欲しかった』って言ってほしかったんだろ?」 「それで?」 「うん?」 「それで家永は言ったのか? その……、か『門脇が欲しい』って……」 「言った」  あっさり答えた家永に 「言ったのか?!」  と知己は聞き返した。 (……なぜ、俺は平野に咎められているのだろうか?)  家永は、やはり (腑におちん……)  と思った。
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