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「いや、まあ……家永が研究室に受け入れたというのは、分からないでもないが。門脇は本当に優秀な男だからな。なんというか……口と性格は悪いが」
「それと、素行も悪いな」
にべもなく家永が付け足す。
「あ、確かに」
門脇のいい所がどんどん削られていく。
「高校時代にあいつ、よく放課後に理科室に来て、片付けや掃除したり授業準備の手伝いをしたりしてくれたんだ。それは痒いところに手が届く男だった。ああ見えて、俺のうっかり忘れているものまで気付いて、言われなくても準備してくれる」
「それは同感だ。あいつ、ああ見えて、0.1を知って10知る男だ」
と家永も絶賛した。
二人して「ああ見えて」を門脇の枕詞のように使う。
一体、知己と家永には、門脇蓮はどう見えているのだろうか。
「だから、家永が研究生として門脇が欲しいって思うのは、ごく自然なことだし気持ちは分かるんだ……けどっ」
言っている言葉とは真逆の表情浮かべる知己に、意味が分からず家永は
「けど?」
と続きを促した。
「だけど……そういうのを言われるがまま言うって、なんか……なんか……その……」
もにゃもにゃと歯切れの悪い言い方する知己を
「……」
黙って家永が見つめていると、知己は観念したかのように、
「……いいのかよ。門脇の言いなりになって」
と、ぼそりと本音を口にした。
「それは仕方ない」
さらりと答える家永に
「え? そうなのか? それって仕方ないことなのか?」
知己は少なからず焦った。
(家永。教官なのに、そんなこと言わされて「仕方ない」って受け入れてて……あの門脇の言いなりなのか?)
(と、いうことは……既に門脇が気持ちの上で家永よりも優位に立っていると見ていいのか?)
(つまりそれって……門脇が「もう知己先生と会うな」とか言い出したら、家永は俺よりも門脇の方を優先させちまうってことなのか)
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