第2話 シロツメクサ・2

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「なんだ、その顔は」  ドリンク片手に帰って来た知己に、家永が言う。 「お前の所為だぞ」 「なぜ?」  甘い香り漂うココアを手に知己が渋い顔をしていた。  知己は砂糖入りのドリンクが苦手なのに、長考の末、うっかりと「ココア(砂糖増量)」釦を押してしまったのだ。   「……取りに行く手間が省けた。それを寄こせ」  家永は自分の空になったカップを差し出し 「お前は新しいのを取ってこい」  と言うのだった。  今度こそ知己がカフェ・ラ・テを持ってくると、やはり入れ替わりにホールスタッフが 「クラブサンドでございます」  と家永がオーダーしたものを運んできた。 「……うまそうだな」  こんがり焼けたホットサンドは、半分にカットされて綺麗に盛り付けられている。切り口からのぞくローストチキン、半熟卵、レタス、ベーコンに、朝ごはんをしっかり食べた筈の知己がうっかり呟いた。 「食ってもいいぞ」  家永がわずかに知己側に皿を押すと 「もらう」  知己は遠慮なく、その一つを摘まんだ。 「うまいな」  齧りつくなり知己が感想を漏らすと 「だろ?」  家永は自分の選択に満足そうに頷いた。そして家永も、知己と同じようにサンドイッチを口に運んだ。 「……まあそういう訳でだな、空腹は最高のスパイスというが、この間はそれに幻が加わったんだ」 「ん? 何の話?」 「門脇君に『欲しい』と言わされた時の話だ」  そうだった。  目の前のものにつられて、うっかり忘れていた。  みるみる知己の眉間に皺が寄る。 「なあ、家永。最初はいいかなって思ってたけど、門脇って扱いにくい所があるじゃないか。いくら優秀でも、お前のとこの研究生になったの、ちょっと心配だなって……」  堰切ったかのように知己が言うのを、家永は手で制し 「……屈辱だった」  と語り始めた。 (あ、屈辱だったんだ)  どこか、ほっとする。 「……なぜ俺が、そんなこと言わねばならんのだ」  次のクラブサンドを手に取りながら、家永が言う。
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