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「なんだ、その顔は」
ドリンク片手に帰って来た知己に、家永が言う。
「お前の所為だぞ」
「なぜ?」
甘い香り漂うココアを手に知己が渋い顔をしていた。
知己は砂糖入りのドリンクが苦手なのに、長考の末、うっかりと「ココア(砂糖増量)」釦を押してしまったのだ。
「……取りに行く手間が省けた。それを寄こせ」
家永は自分の空になったカップを差し出し
「お前は新しいのを取ってこい」
と言うのだった。
今度こそ知己がカフェ・ラ・テを持ってくると、やはり入れ替わりにホールスタッフが
「クラブサンドでございます」
と家永がオーダーしたものを運んできた。
「……うまそうだな」
こんがり焼けたホットサンドは、半分にカットされて綺麗に盛り付けられている。切り口からのぞくローストチキン、半熟卵、レタス、ベーコンに、朝ごはんをしっかり食べた筈の知己がうっかり呟いた。
「食ってもいいぞ」
家永がわずかに知己側に皿を押すと
「もらう」
知己は遠慮なく、その一つを摘まんだ。
「うまいな」
齧りつくなり知己が感想を漏らすと
「だろ?」
家永は自分の選択に満足そうに頷いた。そして家永も、知己と同じようにサンドイッチを口に運んだ。
「……まあそういう訳でだな、空腹は最高のスパイスというが、この間はそれに幻が加わったんだ」
「ん? 何の話?」
「門脇君に『欲しい』と言わされた時の話だ」
そうだった。
目の前のものにつられて、うっかり忘れていた。
みるみる知己の眉間に皺が寄る。
「なあ、家永。最初はいいかなって思ってたけど、門脇って扱いにくい所があるじゃないか。いくら優秀でも、お前のとこの研究生になったの、ちょっと心配だなって……」
堰切ったかのように知己が言うのを、家永は手で制し
「……屈辱だった」
と語り始めた。
(あ、屈辱だったんだ)
どこか、ほっとする。
「……なぜ俺が、そんなこと言わねばならんのだ」
次のクラブサンドを手に取りながら、家永が言う。
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