83人が本棚に入れています
本棚に追加
「だけど、門脇君はプリンとコーヒーまでも差し出してきたんだ」
「……家永……、お前、また飲まず食わずで仕事してたのか」
想像に難くない。
家永は研究に夢中になると、寝食忘れて没頭してしまうタイプだった。それで体調崩すこともよくあった。
「あの日俺は昼までほとんど何も食わずに、昨日までの実験結果をまとめてた。買い出しに行ってくれた門脇君は、なんと、購買部の幻・蜃気楼・都市伝説・ツチノコと言われるカツサンドを買って来たんだ」
「え。それはすごいな。門脇の奴、どんだけ強運?」
知己が在学中にもほとんどお目にかかれていない「購買部のカツサンド」だ。
「それを並べて、あいつは『門脇君が欲しい』と言わなければ、やらんと言った」
「鬼か。鬼の所業か」
思わず同意したが、門脇なら通常運転だ。
「金を出したのは俺なのに、なぜお預けを食らわねばならんだ?」
(……門脇だもの)
某詩人的に知己は思った。
「そんなことされたら、逆に意地でも言いたくない。だろ?」
「だな。まったくもって人の神経逆撫でする行為だ」
と言いながらも知己は、やっぱり
(だって、門脇だもの)
を繰り返していた。
「俺は言わずに膠着状態となった。するとあいつ、更にプリンとコーヒーを出してきやがった」
「ひでえ!」
門脇の無駄に高いネゴシエーション能力に、知己が唸る。
「でも我慢した」
「それでも踏みとどまったのか、家永」
知己は、全力で家永を褒めていた。
家永は満足そうに、クラブサンドの脇に添えられたパセリをぽいと口に放り込む。家永は、皿の上のものは全て食べることにしている。パフェにおけるミント、料理におけるパセリは大切な役割があると、家永は決して残すことがない。
「……だがな、トドメに期間限定チョコレートを出されて……」
「……」
「俺はやむなく、……言ったんだ」
「そっか。……それは仕方ない」
異常に知己は納得していた。
最初のコメントを投稿しよう!