第3話 菖蒲・1

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 美羽から顔を背けた先には、池がある。池を縁どるように菖蒲が置かれ、池の中には蓮の鉢があった。蓮の周りをメダカが気持ちよさそうに泳いでいるのも見える。  明らかに自然発生ではないと分かる。  何者かが世話をしているのか、意図的に持ち込んでいるのだと分かる。誰かが生態系の研究で作ったものか、またはその一環でお遊びで作ったビオトープか。  爽やかな五月の風が吹き藤の花を揺らす中、家永は 「俺に何の用だ」  早々に美羽を追い払いたくて、用件を尋ねた。 「用事は、さっき言ったわ。門脇君ばっか働かせてないで、ご自分の実験に戻ってください。家永先生」  ツンツンとした棘のある言い方。  とはいえ、門脇と二人きりで研究室に籠られても美羽としては気になる。 「それこそ俺もさっき言ったぞ。15分したら戻る。しかも、門脇君が今しているのは自分の研究の実験だ。俺の実験ではない」  辟易として家永が答えると 「え? そうなんだ」  美羽は目を丸くして、家永の方をようやく見た。  クルクルとした大きな眼、艶やかな桜色の唇、10人が10人共「可愛い」と答えるであろう愛くるしい顔立ちに加えて、Fカップと噂されるバストの持ち主。2年連続ミス慶秀大に君臨している美少女……いや、20歳の美女へと成長を遂げた。 「それは……ごめんなさい。私、てっきり門脇君をいいようにこき使っているのだと思って」  美羽は素直な謝罪を口にした。 「去年の夏も研究生でない門脇君を研修合宿に連れて行ったし、この間は購買部の買い出しをさせてたし」 「……」  否定はできない。  確かに、美羽の言うように門脇をいいように使っている節もある。
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