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(今のは天然装った嫌味だったのだろうか……)
と家永が考えていると、不意に美羽から
「……ずっと、こんな感じ……」
呟きとも独り言とも取れる言葉が聞こえた。
「何の話だ?」
家永が聞き返すと
「……家永先生は門脇君のこと、どう思っているの?」
返事ではなく、質問が返ってきた。
「平野曰く『性格と口と素行が悪くて、無駄に交渉上手でズル賢い奴だが、悪いヤツではない』そうだ。俺も全てにおいて同意見だ」
「……元担と先生、二人とも酷い言い方」
美羽は少し目を細めて言う。
池の水面が陽の光を反射してキラキラと眩しく輝いていた。
「門脇君、あれでいてすっごく優しいんだから」
『あれでいて』を付けた時点で、御前崎美羽も少なからず知己と家永に同意見と思われた。
「高1の時なんだけど……私、門脇君の隣の席だったの。門脇君、髪の毛赤いし、あんまり喋らないし、なんだかいつも睨んでいるような目つきだったから……超怖かった。授業中も寝てばかりだったし。この人、何しに学校来てるのかなって思ってた」
(平野から聞いたことあるな。入学当初からの問題児。進学校にあまり居ないタイプで、すべての教師が手を焼いて彼の素行には持て余していたと聞く……)
「でも私が先生に突然指名されて、分からなくてオロオロして困ってたら、こっそり答えを教えてくれたの」
「そうか……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
待てど暮らせど、美羽からの続きはない。
「……………………もしかして、それだけか?」
思わず、家永が言うと
「そ、そうよ! それだけよ、悪い?!」
美羽はキレ気味に拳を振り回して言う。
「あの時門脇君が教えてくれた『中臣鎌足』が、今の私を支えてくれているんだから、ね!」
とんだ大化の改新(※)である。
(※)大化の改新:最近は「乙巳の変」というらしいですが、私の時代は「大化の改新」で習いました。中大兄王子と中臣鎌足が、蘇我入鹿を討った事件。645年の語呂合わせに「イルカなのに虫殺し?!Σ(゚Д゚)」と覚えました。
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