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「あっ! そういえば、まだあったわ!」
突如として、美羽は叫んだ。
「私がミス慶秀大になった時よ!」
今更、追加で思い出した辺り、美羽の思い入れはかなり怪しい。
「ミスになった途端ストーカーみたいな人がわっさわさ湧いて出て、毎日付き纏われて本当に怖くて困ってた。そのときも助けてくれたわ!」
門脇ほど頭脳明晰で優秀な学生は居ない。腕力は申し分ない。向かう所敵なし。ストーカーのみならず、高身長の男子さえも敵わないと諦め、御前崎美羽の彼氏として名乗りを上げることを諦めた。
「ほーら、優しい! ね、優しい! 見たことかー!」
(家永先生と違って、私は高校から門脇君とは一緒なんだから)
鬼の首を取ったかの如く、美羽は家永に勝ち誇った。
「……菊池君が単位ヤバイからと綺麗にまとめている門脇君の授業のノートを見せてほしいと頼んでいた時に、意地悪して『見せるか、ばか』だの『新作DVDと交換』だとか、レートのおかしい取引を持ち掛けていたが……」
2月。後期テスト直前に、菊池が家永研究室までやってきて門脇に頼み込んでいた。
家永はその時のことを克明に思い出していた。
「えっ?! やっ……!」
(やりそうー!)
勝ち誇っていた美羽は一瞬で言い負かされて、真っ赤になった。
「それって、つまり……、わ、私にだけは特別に優しいってことじゃない!」
頑張って、思いっきりいいように解釈した。
「そうと決まったら、今年もミスを防衛して門脇君に彼氏役を続けてもらわなくちゃ……!」
「……そうか、頑張れよ」
感情の抑揚なく家永が言ったタイミングで、腕時計のアラームが鳴った。
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