第3話 菖蒲・2

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「1次審査するまでもない。御前崎さんは以前にスピーチ審査を潜り抜けて、今のミスって立場なんだから。それに参加は任意なんだ。現ミスにも参加してもらった方がコンテストは盛り上がる。そのくらいのアドバンテージがあって当然だよ」  北野が女子の居る所より一段低い審査員席に連なる位置から丁寧に説明するが 「そんなん、うち、1年やけ知らんしぃ」  と、彼女は不遜な態度を改めようとしない。 「うちらのこと眼中にないんかもしれんけど、どこかに行くんやったら、うちのスピーチ聞いてからにしてぇ」  と言うと、彼女はマイクをマイクスタンドに戻し、その上で手を組んだ。緩く体重をスタンドに預けたポーズはだらしなさも感じたが、先程の悪役っぽい発言もあってか、どこか魔性の色っぽさを感じた。  ややハスキーがかった、魅惑的な甘い特徴的な声で彼女は続けた。 「理科学部1年の正田彩子です。現ミス御前崎美羽……じゃなかった、御前崎美羽さんの三冠阻むためにエントリーしましたぁ。おなしゃーす!」  あまりにもあっさりとしたスピーチだったが、内容が内容だけに会場がざわつく。  正田彩子はスピーチを終えると、審査員の10名へではなく、講堂出口に棒立ちになっている美羽めがけてバチンとウィンクを決めた。 「なんて酷いスピーチするんだ……」  思わず運営委員の北野は呟いた。  こんなにも好戦的な子に、大学の広報も担うミスを任せられるものかと思われたが、美貌にスタイル兼ね備えた絶対王者・御前崎美羽への挑戦状とも取れるスピーチが気になった者もいたようだ。  正田彩子は、1次審査を通過した。
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