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第3話 菖蒲・3
「うーん……、私、あの子に何かしたかなぁ?」
美羽は、もう花が終わりつつある藤棚の下にいた。
いつものように覗きにいった家永研究室では、門脇に秒で見つかった。
「今やっている実験がもうすぐ終わる。その後学食に行くから、先に行っててくれ」
と門脇に言われたので、研究室前の廊下でグッピーを眺めたり、ゆーっくり歩いたりして門脇出待ち状態だったのだが、ふと理科学教棟裏の美しい庭を思い出した。
正田彩子に身に覚えのないケンカをふっかけられて、美羽と言えど鬱々とした気分だ。
以前見た藤の花の美しく揺れる様や池を渡る爽やかな風なら、こんな嫌な気分を払拭してくれそうに思えた。
「紫外線も15分ならオッケーみたいなこと家永先生も言ってたし、ちょこっとお庭を見てこよう」
と、やってきた。
美羽の座る藤棚のベンチから、理科学教棟の出入り口も見える。
ここなら実験終えて出てきた門脇を見逃すこともない。
残念ながら藤の盛りの時期は終わったようだが、今度は池の周りの菖蒲が見ごろを迎えていた。
菖蒲の青や紫の花弁が、心を落ち着かせてくれる。
「綺麗……」
と美羽が呟いた時、
「……気を付けろ」
いつの間にかベンチの隣に家永准教授が立っていた。
「ひぃ!」
と美羽が分かりやすく悲鳴を上げた。
ビックリし過ぎて仰け反って、あやうくベンチから落ちそうになったくらいだ。
「……大袈裟な」
と家永が嫌そうに言うと、
「先生こそ、どうしてここに?」
と美羽がベンチに座り直して聞いた。
「俺は15分の日光浴だ。ミスが来ているとは思わなかっただけだ」
「すみませんね。私だって来たくて来たわけじゃないんですからね」
「? ……じゃあ、何をしに来たのだ?」
日光浴以外に目的をもたない家永が、不思議そうに聞いた。
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