第3話 菖蒲・3

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 門脇に彼氏役続けて欲しいがために、ミスコン三連覇を狙ってる。だのに、それを阻むと今年入学したばかりの下級生に言われて凹んでいる。  そんなこと言おうものなら、家永から 「なんともナノレベルな悩みだな」  とか鼻で笑われそう。一体、どれだけ馬鹿にされるか、想像に難くない。 「……言いたくない。乙女の秘密よ」  ツーンとして美羽は誤魔化した。 「それよりも、『気を付けろ』って何? 先生だってここに日光浴に来てるじゃない。それに15分以内ならセーフって言ってたくせに」 「そんなこと言った覚えはない」  藤棚の下、花が終わって葉が茂る陰で立っている家永の顔も、ベンチに座る美羽の顔もほんの少し漏れる日の光が当たっている。 「えぇ? 嘘! 絶対に言った!」  と美羽が言えば、家永は 「15分だろうがなんだろうが紫外線浴びるのには変わりない。俺が15分の日光浴をするのは体内のビタミンD生成の為だ。俺は偏った食生活している自覚はあるからな。食品でのビタミン摂取が困難だから、敢えて日光に当たるようにしているだけだ。日焼けのリスクより、ビタミン不足を懸念してのことだ」  ほぼ普段やっている講話状態を、美羽一人相手につらつらと語った。 「え? じゃあ15分以内ならセーフっていうのは?」 「……どんな勘違いをしたら、そうなるんだ。俺の言ったことを、君の主観で都合いいように捻じ曲げるのはやめてくれ」  家永は深いため息を吐いた。 「ほぇぇ……そうだったのかぁ。ビタミン不足……、考えたことなかった」 「シイタケに多く含まれる」 「シイタケぇ?!」  美羽は、この世の終わりを見たかのような顔になった。  それ以上は言わずとも (……大嫌いなんだな)  と家永に伝わった。 「……食事で補えないのなら15分、日に当たればいい」 「ややこしいわね!」 「八つ当たりをするな」  家永は理不尽さを感じていた。
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