第3話 菖蒲・3

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「ぃやぁぁぁぁぁぁ! ナメクジが大量に……! 待って、私、さっきまでここに座って……! いやぁ、もしかして……触っちゃった!?」  叫ぶというか狼狽えるというか、かなりのパニックになって家永に「いや、触ってない」という言葉を求めて救いのまなざしを向けたが 「ナメクジには高確率で寄生虫がいる。サラダなど生野菜にくっついて誤って口にした場合、頭痛や吐き気などの症状を引き起こす。触ったかもしれないなら、しっかりとした手洗いを勧める」  淡々と対処法を告げられるだけだった。 「ちょおーっ! その前に、ベンチに座らない方がいいって教えてよ! あ! それで自分はずっと立ったままだったのねー!」  美羽は罵りながら、あわあわとしながら自分の手やベンチに触れてたスカートを見た。 「御前崎。こんなとこに居たのか?!」  理科学教棟出たタイミングで、ちょうど美羽の悲鳴が聞こえてきたので、門脇が慌てて裏庭の方にやってきた。 「あ、門脇君ー!」  騎士(ナイト)の登場に、美羽は喜び門脇に駆け寄った。 「すっげえ悲鳴が研究室まで聞こえたから、またストーカーかと思ったじゃねえか」  無事そうな美羽を見て安心する門脇に 「ぶっちゃけ、ストーカーの方がまだマシよ! (たち)が悪いわ、家永先生」  と美羽は訴えた。 「そうか?」   言われて門脇はちらりと家永を見た。  藤棚の下に立ち尽くす家永は、未だ15分経っていないので日光浴の最中だ。美羽にあからさまな悪意を向けられても、別にどうということもない。 「いたって普通だと思うけど」 「門脇君。ミスと手を繋ぐなよ。というか、どこにも触られないように気を付けろ」  と、家永はさらりと二人の仲を引き裂くことを言った。 「何? なんで?」  門脇が、家永の忠告通りに近付いてきた美羽からすかさず距離を取ると 「酷い! 家永先生なんか、馬に蹴られて死んじまえー!」  美羽は怒り狂っていた。  美羽に被せるように家永が 「ミスは、ナメクジを触ったかもしれん」  と言うと、門脇は 「わぁ。えんがちょー」  と、指をチョキの変形型に組み、小学生のようなポーズを取りながら更に美羽から離れた。 「ちょ、門脇君。まじで酷ーい……」  やっと現れた意中のナイトに冷たくあしらわれ、美羽がその場に膝から崩れ落ちそうになっていた。
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