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「本当に、冗談抜きでどこにも触るなよ。御前崎。さっさと石鹸で手を洗ってこい」
門脇は理科学教棟で一番近い手洗い場を指さした。
「ふぇぇん。めちゃ、ばい菌扱いー!」
「いや、正しくは寄生虫扱いだ」
と、家永が突っ込んだ。
「今、そんなツッコミ要らなーい!」
美羽は、ベソかきながらも門脇が指さした女子トイレへ向かった。
門脇は、ご丁寧にトイレのドアノブを開けてくれたが、こんな紳士的行動も、今の美羽には嬉しくもなんともない。ただ美羽にドアノブを触らせたくないというだけの配慮である。
「石鹸のポンプも、掌じゃなく手の甲で押せよ!」
と逐一言われて、美羽はベソベソしながらも門脇の言う通りに念入りに手を洗った。
美羽が手を洗っている間、門脇は藤棚の下の家永の所に戻って来た。
「先生。あんま、あいつを揶揄うなよ」
と門脇がぼそりと言う。
美羽は、なぜか家永を極端に嫌っている。すると、美羽を慕う男子学生までもが家永を目の敵にしている。
それを、門脇は感じ取っていた。
(家永先生に嫌がらせしないで、彼氏役やっている俺にすればいいのに……)
嫌がらせされたら3倍にして返してやろうと門脇は思っていたが、そんな命知らずはいまだかつて現れたことはない。
「ほう。それは……ある種のヤキモチなのか?」
と家永が聞くと
「んな気持ちは1ミリもねえよ。これ以上、先生までゴタゴタに巻き込まれたら、俺、守れねえぞって話だよ」
門脇がぼやいた。
「守られた覚えもないし、揶揄った覚えもない。本当のことを知らせたまでだ」
家永が心底、不服そうに言う。
「いや、傍目から見たら、めっちゃイチャついているように見えてるってーの」
「……イチャついて? あれが?」
(……門脇君は、頭はいいが目は悪いのだな)
と家永が思っていると、そこで15分経過のアラームが鳴った。
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