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第3話 菖蒲・5
「あ、門脇君! 今日は学食にちゃんと来たのね」
いつも誘わないと来ない門脇が、今日は早々にテーブルについていた。
「おう。今日は家永先生も一緒だぞ」
インドアで研究を満喫する家永をうまいこと学食に連れ出すのに成功し、門脇はほくほく顔で言う。
嬉しそうな門脇の隣には家永が座って、無料の学食のお茶を啜っていた。
「はあ?! なんで?! どうして?!」
振れ幅大きく、美羽の機嫌は一気に悪くなっていた。
「研究室ばっかじゃなんだから、たまには……と思って先生を連れだした」
指導教官を友達のように外に連れ出せることができる学生など、そうそういまい。
(先生は15分しか日光に浴びないんじゃなかったの?!)
理科教棟から学食までは片道でも15分かかる。往復だと30分になるじゃないの……と美羽が苛立たし気に無駄な計算をしていると、
「学食の九州フェア、今日が最終日だと門脇君から聞いたからな。評判の『黒豚トンカツ』を食べに来ただけだ」
そう言って、家永は揚げたてのトンカツにサクっと歯を立てた。
「むかつくー! それ私も食べたかったけど、最終審査を前にさすがにトンカツは食べられないわ」
という美羽は筑前煮定食を手にしていた。もちろん、ご飯は雑穀米を選択している。
美羽は、家永の正面は避けて門脇の向かいに座った。美羽の横には、近藤大奈が。近藤の向かい……つまり門脇の隣には菊池がそれぞれ座った。
門脇は、チキン南蛮定食だ。
「くっ……。門脇君も揚げ物……、めちゃ美味しそ……」
美羽が悔しがるが、最終審査前に揚げ物のドカ食いだけは避けたいところだ。
「いいもん、いいもん。ミスコン終わったら、毎日をチートデーにしちゃうんだもん」
と強がりながら、醤油の色に染まったレンコンに齧りついた。
「近藤ちゃん。チートデーって毎日するものなのか?」
「いえ。ダイエットにおいて、それは意味がない……」
呆れかえる菊池と近藤だが、それよりも美羽は自分に注がれる刺すような鋭い視線に
「……ん?」
と気付いた。
学食の入口付近に立ち止まった正田彩子が鼻に皺を寄せ、鬼の形相で美羽をじっと睨んでいる。
「あれは正田さん……」
美羽がその名を口にすると、
「ん? ああ、本当だな。あいつも飯食いに来たんだな」
意外にも門脇も彼女を知っているような口ぶりだ。
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