第3話 菖蒲・5

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「あ……」  中には入らず、正田彩子はくるりと踵を返す。昼時で流れ込んでくる学生の波に逆らうように、学食から出て行ってしまった。 「正田彩子(オリーブ)ちゃん、出て行っちゃったね」  と菊池が言うと、近藤大奈は 「美羽が居るから、学食を避けたんでしょ」  長い髪を耳にかけ、とんこつラーメンを啜り始めた。  目下、ミスコンで戦うもの同士。  これも致し方ないのかもしれない。 (分かっちゃいるけど、ああもあからさまに嫌われるのってなんだかなぁ……)  御前崎美羽は息を一つ吐くと、門脇の方に向き直り 「ねえ、どうして門脇君は正田さんを知ってるの?」  と聞いた。 「知ってるも何も……。俺達の後輩じゃねえか」 「え?」  雑穀米を食べようとしていた美羽の箸が、ピタリと止まる。  門脇はタルタルソースをたっぷりからめたとり天を口に運びながら 「4月に、んーっと確か……入学式終わった次の日ぐらいか? 理科学棟まで挨拶しに来たぞ。『理学部1年になりました正田彩子です。実は門脇先輩と御前崎先輩には東陽高校でお世話になりました』って」  と答えた。 「「「ええええ?!」」」  門脇の言葉に、美羽だけではなく、大奈と菊池も驚いた。 「な、なんだ? 近藤に菊池まで。そんなに驚くことか?」  三人の驚き様に、門脇の方が引いている。 「いや、だって……」 「御前崎…………?」  ミスコンではそんな呼び方を一度だってしたことない。そんな関係など微塵にも感じられない呼び捨てだったではないか。 「門脇、高校時代からオリーブちゃんのこと知ってたのか?」  門脇に、自分達も知らない後輩とそんな交流があったとは。  比較的門脇と仲良かった三人は顔を見合わせて、ただただ戸惑うばかりだ。特に菊池は、小学校からの腐れ縁。かなりのショックを受けている。 「オリーブちゃん?」  不思議そうに門脇が聞き返す。  「まさか……。門脇、もしかしてミスコン予選は見てないのか?」  菊池が言うと 「いや。全然興味ねえから見に行ってねえ」  と門脇が断言する。 「ええー。興味……ないの?」  仮にも現ミスの彼氏だというのに、この興味のなさは酷過ぎる。 「ない。というか、御前崎も奇特だなーって思ってる」 「むぅ」 「だってミスになったら、お前、三連チャンじゃねえか。これまで以上にストーカーみたいなやつに狙われねえか?」 「か、門脇君。心配してくれてるの?」  言われ方はともかく、美羽の狙い通りに門脇は気にしていた。
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