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「あ……」
中には入らず、正田彩子はくるりと踵を返す。昼時で流れ込んでくる学生の波に逆らうように、学食から出て行ってしまった。
「正田彩子ちゃん、出て行っちゃったね」
と菊池が言うと、近藤大奈は
「美羽が居るから、学食を避けたんでしょ」
長い髪を耳にかけ、とんこつラーメンを啜り始めた。
目下、ミスコンで戦うもの同士。
これも致し方ないのかもしれない。
(分かっちゃいるけど、ああもあからさまに嫌われるのってなんだかなぁ……)
御前崎美羽は息を一つ吐くと、門脇の方に向き直り
「ねえ、どうして門脇君は正田さんを知ってるの?」
と聞いた。
「知ってるも何も……。俺達の後輩じゃねえか」
「え?」
雑穀米を食べようとしていた美羽の箸が、ピタリと止まる。
門脇はタルタルソースをたっぷりからめたとり天を口に運びながら
「4月に、んーっと確か……入学式終わった次の日ぐらいか? 理科学棟まで挨拶しに来たぞ。『理学部1年になりました正田彩子です。実は門脇先輩と御前崎先輩には東陽高校でお世話になりました』って」
と答えた。
「「「ええええ?!」」」
門脇の言葉に、美羽だけではなく、大奈と菊池も驚いた。
「な、なんだ? 近藤に菊池まで。そんなに驚くことか?」
三人の驚き様に、門脇の方が引いている。
「いや、だって……」
「御前崎……先輩……?」
ミスコンではそんな呼び方を一度だってしたことない。そんな関係など微塵にも感じられない呼び捨てだったではないか。
「門脇、高校時代からオリーブちゃんのこと知ってたのか?」
門脇に、自分達も知らない後輩とそんな交流があったとは。
比較的門脇と仲良かった三人は顔を見合わせて、ただただ戸惑うばかりだ。特に菊池は、小学校からの腐れ縁。かなりのショックを受けている。
「オリーブちゃん?」
不思議そうに門脇が聞き返す。
「まさか……。門脇、もしかしてミスコン予選は見てないのか?」
菊池が言うと
「いや。全然興味ねえから見に行ってねえ」
と門脇が断言する。
「ええー。興味……ないの?」
仮にも現ミスの彼氏だというのに、この興味のなさは酷過ぎる。
「ない。というか、御前崎も奇特だなーって思ってる」
「むぅ」
「だってミスになったら、お前、三連チャンじゃねえか。これまで以上にストーカーみたいなやつに狙われねえか?」
「か、門脇君。心配してくれてるの?」
言われ方はともかく、美羽の狙い通りに門脇は気にしていた。
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