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「あ! じゃあ、門脇君。あの、良かったらなんだけど、このシイタケどうぞ」
さもいいこと思いついたように御前崎美羽が、筑前煮の皿を差し出す。
「もらう」
門脇は飾り包丁入ったシイタケを箸でひょいと摘まむと、そのまま口に放り込んだ。
「……ふふん」
家永の方をチラ見して美羽は
(どうよ。私だってこんなに仲良しなんだから。先生だけじゃないんだからね)
と得意げに笑ってみせた。
なぜか意味ありげな視線を送られた家永は、
「……なぜ、ミスはシイタケを食べられないくせに筑前煮にしたんだ?」
とぼそりと訊いた。
「う……」
一瞬言葉に詰まった美羽は
「……だって、野菜だくで体に良さそうだと思ったんだもん。シイタケ入っているって思わなかったんだもん」
家永の素朴な質問に、さっきの勝ち誇った勢いはものの見事に打ち砕かれていた。
「美羽。先生に張り合うついでに、スキキライを門脇君に押しつけない」
「……はい……」
近藤大奈にも諫められて、美羽はますます肩を落としただけだった。
門脇は、もらったシイタケを「出汁沁みてて美味いな、これ」と押し付け上等と喜んでいる。そして、美羽達がやたらと気にする正田彩子の話を続けた。
「さっきの話の続きだけど、俺も正田が自分で言ったから二個下の後輩って分かっただけ。俺も全然知らなかった」
4月に正田彩子が、そんな挨拶をしていたのだ。
『きっと先輩達はうちのこと知らんと思います。でも、うちは門脇先輩のこと、よう覚えてます』
と。
「正田……?」
食べ終わった家永が、ようやく会話に参加してきた。
「どこかで聞いた名前だな……」
「そりゃそうだろ。今年の理学部の新入生だって、さ」
と、門脇が答える。
「そうか。うちの新入生だったか」
納得して、家永は残っていた湯呑のお茶を全て傾けた。
そして、空の器ばかりになった盆を持つと「先に帰っているぞ」と門脇に告げ、家永は食器返却口に向かった。
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