第3話 菖蒲・6

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「なんだろ? 中庭の方よね?」  好奇の瞳輝かせる美羽は 「私が見てくるから、あんたはここに居なさい。門脇君をびっくりさせたいんでしょ? 出番前に出て行っちゃダメよ」  と、大奈に諭され 「はーい。大奈に頼んだ!」  おとなしく控室の椅子に座り直した。 +++++  急いで図書館棟を抜け中庭に飛び出た大奈は、ちょうど特設ステージの真裏に出た。  ステージの真裏なので視界は悪いが、そこから中庭全体を一望できる。 (さっき見た時より、人が増えているみたい)  近藤大奈が図書館棟に入る前より、明らかに人が増えていた。  野外会場なので、見ようと思えばたやすく見られる気安さで、騒ぎを聞きつけた学生や普段はミスコンなど見にも来ない教官の姿までちらほらと見えた。  その中には、不思議と家永准教授の姿もあった。 (……ん?)  門脇以上に興味なさそうな、むしろそういうお祭り騒ぎは避けたがるような家永に、大奈は目を凝らした。 (また門脇君が面白がって連れ出したのかしら?)  と思ったが、家永の手には購買部のレジ袋。 (ははぁ。  うっかりミスコン最終審査開催中とは知らずに、お腹空いて夕飯かおやつかを買いに購買部へ来たはいいけど、膨れ上がった観客に身動きできなくなって帰れなくなっている……と見たわ)  大奈は自分の考察に一人納得し、うんうんと頷いた。 (あ、こんなことしている場合じゃなかった)  それまで次々と現れる美しい候補者にわあわあと色めき立っていた会場が、今は違う。どよどよと困惑の声を上げているのだ。 (一体、なにが起こっているの?)  近藤大奈は急いで人の波をかきわけて、ステージの方に回った。 「エントリーナンバー6、正田彩子!」  二次の水着審査の時と同様のラッシュガードを着た、今からマラソンでも走りに行きかねないスポーティないでたちの正田彩子が、ランウェイの先端に立っていた。  美羽をはじめとするこれまでの候補者は、普段は絶対に着ないようなきらびやかな、それなりに見栄えのする、いわゆる勝負服だった。  それでいうと地味な正田彩子の服装は真逆。それで会場は困惑したようだ。
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