第3話 菖蒲・6

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(あ、酷……)  グラビアアイドルのような御前崎美羽の体型が稀有なのだ。酷い言われように、同じ女性として近藤大奈はハラハラして、ステージ上の正田彩子を見た。  最初に体型の話を持ち出したのは彩子の方だったが、美羽擁護の野次はあまりにも汚い。  しかも、多勢に無勢。ステージ上の彩子は集中砲火を浴びた。  お祭り騒ぎだったミスコンの空気が、一気に険悪なムードに流れて行った。 「……」  何を言い返すでもなく、彩子はひとしきり野次を聞いていた。  かつてないほどの険悪な雰囲気になったミスコンに、実行委員の北野もステージ下の大奈も、じっとりと手のひらにかいた汗ごと握りしめる。  彩子がさらに何か言おうものなら火に油。この嫌な流れを元のお祭りムードに戻すには、黙ってさっさと退場するのが良策に思えた。最悪な悪口三昧だが、どうか何事もなかったかのように華麗にスルーしてくれと願った。  しばらく待つと少しばかり野次が収まっただろうか。そのタイミングでマイクを握り直した彩子は一呼吸おくと 「……うちに『女』感じなくて上等。あんたらみたいなゲスに、そんな目で見られちょう(見られたく)ない」  売り言葉に買い言葉、ヘイト発言にヘイト発言でご丁寧にお返した。  北野と近藤大奈は思わず (……最悪だ……)  と目を覆った。  一気にミスコン会場に火が付いた。 「ひっこめ、棒! 凹凸ねえ女!」 「どけ!」 「さっさと御前崎さんと交代しろ!」 「いつまでそこに居る気だ?!」 「どけって言ってんだろ?!」 「とっとと帰れ!」 「背の高い女なんか、かわいげねえんだよ!」  まるでシャワーのように罵詈雑言が浴びせられた。  理科学教棟に帰るのを諦めてミスコンを眺めていた家永は (以前観たミスコンと随分違う……。昨今のミスコンとはこんな殺伐とした戦いだったのか)  と時代の変化を憂いていた。  今度ばかりは一向に収まらぬ様子の野次に、呆れかえって彩子は 「あんたらみたいな無知なんしゅ(無知な人)、セリとトリカブトでも間違うて食うたら良かが(良いよ)ね」  ニヤリと嫌な笑顔を浮かべて言った。  次の瞬間、 「お前の方が死ね!」  ランウェイの最先端にいる正田彩子向かって、何かが飛んできた。
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