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「きゃあ……っ!」
近藤大奈のものとも、誰のものとも分からない悲鳴が上がった。
ステージに向かってまっすぐに投げられた何かを判別する余裕はないが、反射的に正田彩子は頭を振って避けた……つもりだった。
ぶしゃぁぁぁ……!
潰れたような音と共に、炭酸の泡がシュワシュワと忙しなく吹きこぼれる。零れた液体が、ランウェイとそれを掴んだ腕とかがんだ正田彩子を濡らした。
最終講義終えて開催された野外会場に、夕日が挿す。
突然のことに驚いた会場は、静まり返った。
強気を崩さない発言に憤った一人が、彩子めがけて炭酸飲料のペットボトルを投げた。それを、急ぎランウェイによじ登り、彩子にぶつかる寸前にキャッチした者がいたのだ。
恐る恐る目を開けた彩子からは、夕日の逆光になっていて、すぐに誰だか分からなかった。
だけど、その背中には見覚えがある。
「……門脇……先輩?」
たどたどしく尋ねると
「おう」
と、門脇は振り向いて答えた。
器用に鉄骨のステージをよじ登り、腕を目いっぱい伸ばして飛びつくようにキャッチしたため、力の加減は失敗した。
炭酸に対応した固めの丸いペットボトルといえど、門脇の驚異の握力でいびつな形になっていた。キャップからは泡が中身の液体と共にブクブクと吹き出している。
ややして、会場は正気を取り戻しつつあった。
「腹立つのは分かるけど、炭酸は投げんな! ペットボトルが破裂しちまったら洒落になんねえだろ!」
門脇はステージに駆け寄った北野に、いまだ泡をブクブクと吹き出し続ける500mlペットボトルを、ぽいっと投げ渡した。
門脇の一喝に
(炭酸でなくても、こんなもの投げないで欲しい……)
これが当たってたら……、と北野は鳥肌が立った。
「正田。お前もお前。トリカブト食ったら死ぬって、草オタクじゃなくても分かるっつーの」
と、ついでのように門脇は彩子を窘めた。
夕日がまぶしいのか、彩子は目を細めて、
「……これで二度目っちゃが」
ぼそりと呟く。
「うん? 何が?」
彩子の言葉の意味が分からずに、門脇が尋ねた。
「助けてもらったの……。やっぱ、門脇先輩はうちのヒーローやったとよ……」
こみ上げてくる嬉しさを押さえるかのように、彩子は口元を両手で覆った。
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