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(あれだけの騒ぎになっちゃったのに……。なんでこの人、こんなにゴキゲンなんだろ?)
ステージを下りようとする彩子を美羽がなんとなく目で追っていると、不意に彩子が
「も、門脇先輩……、大好きぃ……!」
堪えきれない様子で、うっとりと呟いた。
「はあ?!」
聞き捨てならぬと、美羽が目を剥く。
咎めるような声が聞こえ、彩子はようやくステージ脇に美羽が控えていたのに気付いた。
「あ、パイオツカイデー」
「誰がトウカイテイオーよ。これは、ナリタブライアンのコスだっちゅーの!」
美羽が言い返すものの、傍にいた実行委員女子は
「ミス、空耳が過ぎます……」
と半ば呆れて突っ込んだ。
「あ、それよりも……ねえ、正田さん。あなた、高校の頃から私達より二個下の後輩って聞いたわ。その時に私、何かした? 全く身に覚えはないんだけど」
改めて聞く美羽に、彩子は
「うふふ」
と含み笑いを返した。
「うちぁ、やっぱ諦めんことに決めたっちゃ」
謎の宣言に、美羽は
「何を?」
と聞き返した。
「門脇先輩」
「はあ?!」
またもや美羽は大きくて愛らしいアーモンドアイを、さらに大きく見開くことになった。
「ミス慶秀大はあんたに譲るけんが、門脇先輩は譲らんっとよ」
「ちょ、待っ……! 何ぃ?!」
先ほどの宣言は、宣戦布告だったのだ。
それに気付いた美羽が「ちょっと、ますます聞き捨てならないわ! 待ちなさいよ!」と彩子の腕を掴もうとしたが、彩子は器用にその手を躱した。
「御前崎先輩には色々と嫌な思いさせて、ごめんちゃ。そのうちお詫びに伺うけんが、今はゆっくりできんきに。うちゃ、門脇先輩にお誘い受けたとよ。やけん、早よ家永研究室に行きたいっちゃが」
天然なのか。
どこかマウント取る口ぶりに、美羽がムキになって彩子を捕まえようとする。だが、するりするりと彩子は上手に躱すばかりだ。
そうこうしているうちに、北野ご自慢の音響設備から野外会場に響き渡る「うまひょい伝説」が流れ始めた。美羽が今回のコスに合わせて選んだ曲だ。
「出番です、ミス・馬娘!」
実行委員女子にぐいと背中を押されて、美羽はステージに立たされた。
「ちょ……、まだ聞きたいことがあるのにー!」
美羽は叫んだ。
だがそれは、自ら選んだBGMと美羽を待ち焦がれていた大きな歓声にかき消されて、正田彩子に届くことはなかった。
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