第3話 菖蒲・7

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第3話 菖蒲・7

 ざばざばと豪快に頭を突っ込み、研究室の流し場で正田彩子は髪を洗っている。 「……そこをそんな風に使ったのは、初めてかもしれん……」  さも嫌そうに言いながら、家永は購買部で買ったポテトチップスの袋の口を開け、そこから背を裂いて魚の開き状態にした。 「今日は特別だろ。あんな状態で家に帰れるか。大目に見てやれよ」  先に肘まで洗わせてもらった門脇が、家永の開けたポテトチップスを3枚まとめて摘まんだ。  洗い終わった彩子はタオルを頭にグルグルと巻き付けると、研究室隣の物置にしている小部屋に入った。美羽の出番の時には、もう控室から自分の服を持ちだしていた。それに着替え始めたのだ。  研究室の外は、すっかり日が暮れて闇に包まれていた。  夕方の喧騒が嘘のようだ。  大掛かりな特設ステージの解体や会場の片付けが一段落し、中庭は一部を除いて静まり返っていた。  ミスコンの優勝は、御前崎美羽だ。  美羽自身は意図していなかったが、あの嫌な空気を一掃し、少し前に流行った「うまひょい」ダンスで会場を盛り上げた功績は大きい。審査員も会場も文句ない結果だった。  図書館棟前の屋根のあるスペースでは、今回審査員席で使った椅子やテーブルをそのまま並べ替えて、後夜祭さながらにささやかな打ち上げが始まっていた。  そこにはミスコン実行委員会と、今回ミスコンを最後まで盛り上げてくれたエントリーの6人の学生……正田彩子以外の全てが参加していた。その中には優勝した御前崎美羽や近藤大奈もいた。  御前崎美羽は 「ちょっと、私は今モーレツに家永研究室に行きたいんだけど!」  と言っていたが、 「主役が居なくちゃ」  と北野に言われ、近藤も 「オリーブさんが家永研究室に行ったんでしょ? だったら門脇君に任せなさいよ。美羽が行ったら、割る口も割らなくなっちゃうでしょ?」  と引き留める。  それで、渋々とどまった。    その場に、なぜか菊池も乱入していた。  菊池は (御前崎ちゃんにあの馬娘コスを勧めたのは俺)  と、そこにいるのが当然だと自負している。あまりの堂々っぷりに、実行委員の誰もが (この人、誰?)  と思っていたが、 (誰かが呼んだんだろう)  と思い、どうしているのかは問わなかった。
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