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さっきまで彩子が髪を洗ってた流しから門脇は水を汲むと、研究室備え付けのコーヒーメーカーに注ぎ入れた。
「あ、いい香り……」
着替え終わり小部屋から出てきた彩子は、たちこめてきたコーヒーの香りに笑顔を向ける。そして巻いていたタオルをほどき、髪を拭きながら、ポテトチップスを食べている家永の所にやってきた。
「流しとタオルば貸してもろうて、助かりました」
「大したことじゃない。それよりも島原んしゅも食うか?」
パーティ開きのポテトチップスを家永から差し出され、彩子はパイプ椅子に座ると1枚摘まんだ。
(島原んしゅ……)
わずかに彩子の表情が動いた気がしたが
「いただきます。うちも、ポテチすいとーとよ」
というと、パリっと軽快な音を立ててポテチを咀嚼した。
ほどなく門脇も二人のいる長机に三人分のコーヒーを入れてやってきた。
「ありがとうございます」
家永と門脇はマイカップに、彩子には紙コップにコーヒーを入れて渡した。
「それで……家永先生は、どこまでうちんごと分かっちょうと?」
笑顔は絶やさずに彩子が訊く。
「どこまで……とは?」
先程、「島原んしゅ」と言い当てられたこともある。
「しらばっくれても、ダメっちゃん。ここに来る前に門脇先輩に聞いたっちゃよ。うちん事『守ってやれ』って言ったの、家永先生っちね」
多分、これは誘導されているのだろうなと自覚しつつも、彩子は家永に尋ねるのをやめられなかった。
「正直、君のことはよくは分からないが……」
家永は前置きした後、
「君のお兄さんのことなら、よく知っている」
と答えた。
「お兄さん?」
突然の人物の話に、門脇が聞き返した。
「昨年……いや、一昨年だったか? ここの卒業生だ」
「めちゃ、あやふやじゃねえか。どこが『よく知ってる』んだ?」
門脇が突っ込みつつも
「あ! もしかして正田先輩か?」
不意に思いつく人物の名を上げ、家永もそれに頷いた。
「それなら去年の卒業生だ。家永研究室だったから、俺だって分かる」
言われてみれば目のつり上がった所や一重まぶた、ひょろひょろと背が高い所や島原出身で方言が抜けない所など、彩子と共通点が多い。
家永は咳ばらいをすると
「……そう。その正田通信君だ。」
改めて答えた。
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