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「あの日、入学してちょっと経った頃……5月のはじめっちゃかなぁ。兄ちゃんの作っちょお藤棚が見ごろやろうと思い出して見に行ったっちゃけど」
彩子はちらりと家永を見た。
「そこに御前崎先輩と家永先生が一緒におっちょったんよ」
彩子から笑顔が消えていた。
「……なんで門脇先輩ちゅういい人がおりながら、あんなことできるん? っち思ったとよ」
(……俺、【いい人】か?)
門脇にも多少の自覚はあるらしい。
ぎょっとして家永を見ると
(個人の感想は自由だな……)
と家永はさりげなく目を反らした。
「実は、うちな、御前崎先輩に憧れとったん。うちなんかと違うて、可愛いしスタイルいいし、生徒会じゃないのに何かと仕事頼まれても断らんしゃらんと請け負うて、明るくてテキパキしとらすと。誰からも好かれちょう」
(御前崎に憧れてた? 全くそうは見えなかったが……)
門脇の心の声が聞こえたのか、彩子は、ふっと苦笑いを浮かべると
「知っとる? 一重瞼のもんは、二重のもんにものすごい憧れるもんなんよ」
と言う。だが、
「いや、しらん。そのような定義はない」
くっきり二重の家永に一刀両断にされていた。
「と・に・か・く! うち、東陽高校受けたんは、門脇先輩がおったからなんよ。でもあの御前崎先輩と付き合うとるみたいやし、もう諦めるしかないっち思うて」
(え……? 今、なんと?)
門脇と家永が同時に彩子を見つめた。
二人の(今のは、一体?)と問うような視線を、肯定するかのように彩子は赤くなって俯いた。
(……うちは、もう諦めんって決めたっちゃ)
二人の視線に怯んだ彩子だったが、少ししてゆっくりと顔を上げた。
「……門脇先輩、覚えちょらんやろ?」
「何を、だ?」
さっきのは何の聞き間違いかと、未だ門脇が怪訝な表情で聞き返す。
「5年前……、うちが中3の2月なんやけど」
(ってことは、俺は高2だな)
門脇は、すぐに逆算した。
「兄ちゃんの大学進学に合わせて、一緒に下宿させてもらうってことになったんよ。だけん、こっちの高校を受験することになったけど、田舎暮らし長かったけん、受験先の高校や借りる部屋とか見に一人で来たっちゃん。知らない街が楽しくて嬉しくて、うろうろしてたらいつの間にか遅うなって……たまたま、ちょっとガラの悪い子達に絡まれちゃったんよ」
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