83人が本棚に入れています
本棚に追加
「うち、そん頃髪短こかったし、今よりもっと瘦せちょって背もこまうて、おしゃれもようしきらんきに。ありがちなジーパンにダッフルコート。しかもこんな体型やけん、細かぁ男ん子と間違えられたんやろうね。きっと良かカモば思われて、有り金どころか交通系カードまで巻き上げられそうになったんよ」
家永に
「それは…………、怖かっただろう」
と言われて、彩子は「……うん」と首を縦に振った。
「うちはこっちに知り合いもおらんけん、一人で下見に来ちょって頼りの兄ちゃんもまだ長崎。だけん、お金全部取られたら家に帰ることも連絡することもできんきに」
両手の細長い指をもじもじと絡ませながら、彩子は言う。
「すっごう怖かったと。あん子らんことは今でも忘れんが。信じれんくらい分厚いレンズの瓶底眼鏡かけただっさい子に、やたらと弁の達つ子がリーダーやった。そん子らの仲間にぐるっと囲まれ逃げ道ば潰されて……」
(……ん?)
と門脇が思う横で
「すまんが、あんまり怖くないと思う……」
家永が率直な意見を述べた。
「何、言っとらすか!」
ほぼ脊髄反射で、彩子が家永を叱り飛ばし
「うちゃあ、すっごぅ怖かったがね! 一見そがん酷い事ばしよらっさんように見えて、実はあいつら常習犯なんよ。めちゃ慣れちょう感じやった!」
一気にまくしたてた。
「何を言っても都合よく言い返されて、お金もカードも取られっしもうて。……うちは、もう途方にくれとったっちゃん。そこに突然門脇先輩が現れて……かっこよかった……!」
彩子はうっとりとして、続けた。
「悪鬼羅刹の所業っち言うんは、まさにアレたいね!」
(「悪鬼羅刹」は誉め言葉だったか?)
と、家永は思わないでもない。
「赤い髪なびかせて現れたかと思ったら、カツアゲしてた子らを瞬殺で殴り倒し、その場にいたうちも巻き添えで殴り倒されて……痛かったっちゃん」
と言うと彩子は当時を思い出してか、殴られた左頬を擦ってみせた。
「……門脇君。覚えているのか?」
家永が訊くと
「いや」
あっさりと門脇が言う。
最初のコメントを投稿しよう!