第3話 菖蒲・7

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「……ってか、この会話自体がデジャヴなんだが」  と門脇は呟いた。 「デジャヴ?」 「うーん。さっきから思ってたんだが、この話、なんか二回目のような気がする」 「まさか。うちはこがん(こんな)話、人に話すんは初めてっちゃよ」  不意にガチャリと音を立てて、家永研究室のドアが開いた。 「……そういうことだったのか……」  呟きながら菊池がゆらりと現れた。  その現れ方が、ラスボス装っているようで門脇はイラリとしたが、いつもと様子が違うことに気付いた。 「……菊池先輩?」 「オリーブちゃん。俺も覚えてくれてたんだ。嬉しい……」  目を潤ませて菊池が言うが、彩子に覚えられてた喜びで……という訳ではなさそうだ。  ミスコンの打ち上げでちゃっかり飲んでいた菊池は、すっかり酔っている。足取りも、フラフラしていてなんか危なっかしい。 「菊池、酒臭くねえか?」  門脇が聞くと 「ちょっと一杯ひっかけてきた」  仕事帰りのサラリーマンみたいなことを菊池が言う。 「オリーブちゃんがこっちに来ていると聞いて、(主に御前崎ちゃんが)すっげ気になって、ちょっと覗きにやってきた」 「ちょっと? 覗きに?」 「そんなレベルじゃなかろうもん」  もはや乱入としかいいようのない登場の仕方に、門脇も彩子も引いていた。 「……オリーブちゃん、怖かったねぇぇぇ」  これ以上深堀されて美羽のことを気取られてはかなわぬと、菊池が彩子に再び話を振った。 「うん。……いんや、ううん」  一旦は首を縦に振った彩子は、次の瞬間は横に振り直した。 「?」  菊池がキョトンとしていると 「あの日あがん(あれほどの)大勢でたんは怖かったけど、実家出ての兄ちゃんとの二人暮らしは楽しみやったし、それより……何より門脇先輩に会いたかったけん。こっちで受験する高校は、迷わず【東陽】にしたっちゃ」  菊池と同様に赤い頬の彩子が言った。 「それほどまでに、門脇に会いたかったんだ?」 「いや。ぁ、まぁ……。……そう……なんだけど……」  しどろもどろになって彩子の声量は、フェードアウトしていく。  反対に菊池は、ずかずかと三人のいる長机までやってきて、当然といわんばかりにパイプ椅子を出して彩子の隣に座る。そして目に入ったポテトチップスをひと掴みすると、口に放り込んだ。
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